企業活動を継続するためには、それを可能にする資金調達が必要になる。それゆえ、投資の動きと企業活動との間には相互依存関係がある。投資の世界におけるサステナビリティの動きは、1920年代に登場した社会的責任投資*1(SRI)という新しい投資に見出される。SRIは、経済的、社会的リターンの最大化を目指す投資戦略を意味していた。この領域に属する投資家は、環境のサステナビリティ、人権、消費者保護などに取り組む企業や団体の活動を支持していたが、当初は、比較的特殊な投資領域に位置づけられていた。
*1 アメリカで、キリスト教の教会が資産運用の際、倫理の観点から武器、ギャンブル、タバコ、アルコールなどに関わる企業に投資しないように決めたことが始まりだと言われている。
その後、2006年に国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクト(UNGC)が、責任投資原則(Principles for Responsible Investment: PRI)を策定した。この金融業界に向けた提唱への賛同がグローバルで広がり、ESG投資が急拡大した。そして今、社会課題解決に対して、投資をより直接的に紐付けて社会的イノベーションを促進させようとする「インパクト投資」の動きがある。
インパクト投資という用語が登場したのは、2007年のロックフェラー財団主催の会議の場で「地球のためになる行動の手段として害を与えることを最小限に抑えるだけでなく、プラスのインパクトを作り出し、積極的によいものを作り出すこと」を企図して提案されたことに始まる。かつて投資資金を得てテック起業家が社会に変化をもたらし、わずか数10年の間にGAFAとして急成長を遂げたように、社会・環境に対するインパクトを機会と捉え直す投資として注目された*2。
*2 インパクト投資の経緯やその後の展開については、ロナルド・コーエン『インパクト投資』斎藤聖美訳、2021年、日経新聞出版に詳しい。
投資の流れは、金融をめぐる様々な要因の影響を受けるため、その発展の動きは単純ではない。実際、社会環境投資(ESGファンドへの投資)が2021年に2020年の2倍近い水準に跳ね上がり隆盛期に入ったが、2022年には一転して逆風にさらされた。これは、欧州においてグリーンウォッシングのような不正を排除する動き*3があったことや、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響から再生可能エネルギー企業の業績や株価の現実の動きを冷静に見極める投資家の動きが影響したと言われている。また、ロシアによるウクライナ侵攻でロシア産原油や天然ガスの利用が減り、原材料価格が高騰し、インフレ圧力が持続したことなどにより、再生可能エネルギー企業の粗利益率が大きく悪化した一方、化石燃料株は、原油や天然ガスなど資源高騰による収益拡大となったことなどがその主な原因と考えられている*4。
*3 EUの情報開示規則(Sustainable Finance Disclosure Regulation: SFDR)によって投資信託をめぐるルールが変更され、投信が、6条(ESGファンドに該当しない)、8条(ESGを志向するファンド)、9条(ESGファンド)に分類され、ESGファンドを名乗りながら化石燃料にも投資していた一部のファンドは、8条に格下げされ、ESGファンドが一気に減少するとともに、投資家が格下げになったファンドから資金を引き揚げる動きが進んだ。
*4 山下真一『環境投資のジレンマ』2024年、日本経済新聞出版、P.42〜55に詳しい
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