放射線への安全対策

放射線の影響について、従業員の安全対策の視点からも関心が高まっている。企業はどこまでの対策を講じるべきか。丸の内総合法律事務所の中野明安弁護士に聞いた。

Q.企業はどこまで安全対策を実施すべきでしょうか?

放射性物質を直接扱うような危険業務に就くなら業種ごとの労働安全衛生法上の安全基準(電離放射線障害防止規則など)がありますので、それは当然クリアする必要ありますが、日常的な一般企業が、通勤あるいは日常業務の中で、どのような基準で、どのような根拠に基づいて備えればいいのかということは、現時点でこうすればいいという明確な回答を示すことはできません。ただし、何もしなくてい
いということではなく、従業員への安全配慮義務というものは問われているので、企業としては安全に関する適切な情報を入手するようお願いをしたいと思います。

Q.国の示した避難地域に入らないように指導していれば安全配慮義務を満たしているとは言えませんか?

言い分としては、あるでしょうが、国の示した基準を守っていれば企業が責められることはない、100%大丈夫だとは申し上げられません。薬害肝炎訴訟などがいい例です。国が安全上問題無いと言ったとしても、その他の情報により合理的な判断がなされた結果、危険ではないかということが世間的に認知されていたとすれば、国、そして国の情報を盲目的に受け入れ何らの対策も取らなかった企業の双
方に責任があると考えられます。
今回の場面でも、現にアメリカは日本よりはるかに広い80㎞以内は危険だと言っているわけで、さまざまな情報を集めた中で、企業が取った対策が不合理な意思決定に基づくものでなかったか、その決定過程が問われることになると思います。


Q.信頼できる情報が少ないのに対し、インターネット上では根拠がないと思われる情報も多く流れています。

もちろん、当該情報の具体的根拠や情報源が明らかではない情報に基づき企業が意思決定をしたとしたら、それは当該意思決定過程が不合理なものであったと判断されることにつながることになります。本当は、もっと国が信頼の置ける情報提供の方法を確立しておくべきですが、それが無い状況下では、専門家からの意見聴取など、取り得る多くの適切な情報を集めた上で判断してくださいとしか言えません。

Q.少しでもリスクがありそうな地域には、従業員を行かせないというのも手では?
確かに、まったくリスクが無い場所だけで業務を行うのなら100%安全と言えるかもしれません。しかし、一方で顧客の要望に応じなかった、売上の機会を逃した、ということは、企業としての事業継続の根幹(経営者にとっては善管注意義務)が問われることになります。だからこそ、経営者は従業員の安全を第一の方針としながら、事業継続のために適切に情報を入手し最大限に可能な業務を実施してゆ
く、という難しい経営判断を迫られるわけです。それが企業やプロの経営者の宿命なのだと思うのです。 (4月14 日、談)