放火殺人事件で26人が犠牲となった大阪市北区の雑居ビルは階段が一つしかなく、炎で避難経路が絶たれたことで被害が拡大した。国は避難経路確保に向けた改修費の補助制度を始めたが、構造上の理由などから改修のハードルは高く、活用は4棟にとどまる。専門家からは「制度の周知を」との声も上がる。
 総務省消防庁によると、現場の雑居ビルのように、階段が一つしかない類似のビルは全国に約3万棟ある(2022年時点)。
 事件を受け、国土交通省は23年度からこれらのビルを対象に、階段や避難区画を増設した場合に改修費の全額または一部を国や自治体で補助する制度を始めた。だが、制度を設けている自治体は大阪市など全国4市で、実際に補助交付に至ったのは4棟にとどまっている。
 建築コンサルタント業務を担う「国原技術」(京都市)の寺田励子社長によると、改修が進まない背景には所有者側の事情や構造上の問題がある。新たな階段を設けることで物件価値が下がるのを所有者が懸念したり、休業を余儀なくされるテナント側の理解が得られなかったりするケースがある。敷地面積が狭く、改修が困難な物件も少なくないという。
 寺田社長は「改修の必要性を認識しても現実的に困難なケースが多い」と指摘。一方、制度自体を知らない所有者もいるといい、「国は制度の周知を図るべきだ」と強調した。
 情報発信に力を入れる自治体もある。制度を設けている京都市では、所有者向けの独自アンケートやセミナーを開催。関心のある所有者には専門家との個別相談会を案内し、制度利用を促している。市内では3棟の改修につながり、中島吾郎建築安全推進課長は「実際の改修事例が新たな改修へとつながる。その循環をつくっていきたい」と話した。 
〔写真説明〕放火事件があった雑居ビル=2021年12月、大阪市北区

(ニュース提供元:時事通信社)