2018/10/11
AIブームとリスクのあれこれ
■誰でも入手できるAIアルゴリズム
このビデオはどのようにして作るのでしょうか。まず複雑な命令コード一式をコンピューターにインストールし、次にビデオ加工する人物の様々なイメージと音声を読み込みます。この後コンピュータープログラムは、その人物の顔の表情や動きだけでなく、声や話し方のパターンまで含め、そっくり真似できるように学習します。対象とする人物のビデオ画像や音声がたくさんあればあるほど、ディープフェイクは自由自在に偽の発言を作り出すことができるそうです。
こうしたビデオは、インターネットからプログラムコードを有料または無償でダウンロードして作れるというから驚きです。以前、この連載で述べた「3Dプリンターによる銃製造マニュアルのダウンロード」とほとんど同じでしょう。
考えてみれば、ネット上には政治家やタレント、セレブなどを撮ったビデオ映像があふれています。こうした素材に興味を持つ者はだれでも簡単にインターネットからソースコードをダウンロードし、手軽にフェイクビデオが作れる。これだけでも、なんとなく嫌な予感がするではありませんか。
米国のある専門家はこう指摘します。「私たちが観ている人物が本人なのか、本人が話していることなのか、それともフェイクなのか区別できない時代に入りつつあります。これは大きな問題です」と。アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)は、すでにこうしたフェイク画像や映像を見破るための技術の開発に着手しているそうですが、今のところ、フェイクを特定するためのプロセスがとても複雑で、かつ時間もかかると言われています。
しかし仮に世の中にディープフェイクが広まっても、ユーザーはそれを危険なものとは見做さないでしょう。むしろ面白がって繰り返し観るに違いない。過激なYoutube映像ほど数えきれないほどの人が閲覧している現状からもそれは明らかです。しかし、それに慣れ親しんで感覚が麻痺してしまうとやっかいです。自分が観ている映像の真偽の判断がつかず、リテラシーが崩壊してしまうのですから。
■ディープフェイク・ビデオがもたらすさらなるリスク
筆者が観た限りでは、フェイクビデオにはパロディやウケをねらって一目で加工したことがわかるようなものから、先ほどのオバマ前大統領のような真偽の区別がつかないリアルなものまでいろいろあります。一般にこの種のフェイクビデオは、今現在はコメディなどで使われていて、あまり害はなさそうにも見えます。とは言え、その延長上に犯罪リスクの危険性を考えないわけにはいきません。
例えば映画俳優や実業界のセレブなどは世間から注目と賞賛を浴びる一方で、彼ら彼女らを心よく思わない人々もいる。そんな人たちが悪意をもって、いやがらせとか報復のために俳優やセレブを貶めるようなディープフェイク・ビデオを作り、ネットに拡散させるかもしれません。
しかし実のところ、ディープフェイクの拡散をもっとも警戒しているのは米国の政治家や情報当局なのです。最悪の場合、例えば次のような国家レベルの脅威となり得るようなケースが考えられると言います。
(1)大統領や議員選挙などで相手候補者に「トンデモ発言」を言わせたビデオを流して足を引っ張る。
(2)証拠映像をきっかけに告訴された政治家や実業家が、「それはディープフェイク映像だ。私は一言もそんなことは口にしていない」と弁解し、言い逃れの手段に利用する。
(3)国民を分断したり、良好な国家間の関係を破たんさせる目的で、だれかがトランプ大統領のような国のトップにとんでもない発言をさせた映像を流す。とうてい容認できないような人種差別的発言とか、相手国を挑発して戦闘態勢をとらせるような発言です。こんなことが起これば世界は大混乱するでしょう。
さて、これらは米国の話ではありますが、日本はどうなんでしょうか? 国内でディープフェイク・ビデオがネット上にアップされるのは時間の問題かもしれません(いや、どこかでもう映像が流れているかも?)。もしそうなったら、私たちはどう対処すればよいのでしょうか。あまり先行きのことを懸念するのは健康によくありません。けれども今後、まったく気づかないうちにこの種のビデオのとりこになったり、完全に騙されて誤った認識を持つリスクを抱えていることを、私たちは心の隅にとどめておく必要があるのではないでしょうか。
(了)
AIブームとリスクのあれこれの他の記事
おすすめ記事
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/02/03
-
-
-
発災後をリアルに想定した大規模訓練に学ぶ
2026年1月14日、横浜市庁舎10階の災害対策本部運営室で、九都県市合同による大規模な図上訓練が行われた。市職員に加え、警察、自衛隊、海上保安庁、医療従事者、ライフライン事業者などが一堂に会し、市災害対策本部運営をシミュレーションした。
2026/01/26
-
-
-
報告すべきか迷う情報 × 最初の一言 × 隠蔽と正直の分岐点
ここ数年、データ改ざんによる不正が突然発覚するケースが増えています。製品仕様に適合していないにもかかわらず、データの書き換えが行われていたり、燃費データや排ガス成分濃度が改ざんされているなど、さまざまな分野でこうした事件は後を絶ちません。今年も、中部電力・浜岡原子力発電所において、安全データの改ざん疑いが発覚しました。 こうした改ざんを未然に防ぐことは、リスクマネジメントの最重要テーマですが、一方で、既に起きてしまっていることを前提として、いかに早く発見し、対処するかを考えておくことも危機管理においては重要になります。
2026/01/26
-
最優先は従業員の生活支援対策を凌駕する能登半島地震 石川サンケン
家電や自動車の電子制御に用いられるパワー半導体を製造する石川サンケン(石川県志賀町、田中豊代表取締役社長)。2024年元日の能登半島地震で半島内にある本社と3つの工場が最大震度6強の揺れに襲われた。多くの従業員が被災し、自宅が損傷を受けた従業員だけでも半数を超えた。BCPで『生産および供給の継続』を最優先に掲げていた同社は、従業員支援を最優先にした対応を開始したーー。
2026/01/23








※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方