多くの寄せ書きがある壁の前で「いいね!」マークを手に撮影に応じた長谷川氏

「災害支援ハブ」きっかけは「3.11」

災害やテロなど有事に友人に無事を知らせるほか、支援の提供を申し出たり受けたりできるフェイスブックの機能である「災害支援ハブ」。安否確認については世界で1400回以上起動し、2017年11月時点で累計約30億人が利用した。日本でもここ2年で19回発動しているという。この機能ができたきっかけは2011年の東日本大震災だった。フェイスブック ジャパン代表取締役の長谷川晋氏に災害への取り組みを聞いた。

「災害支援ハブ」の前身である「災害時情報センター」は2014年10月にリリース。フェイスブックでつながっている友人や家族に無事を知らせたり、該当エリアにいる人の安否を確認したりといったことを利用できるようになった。これが生まれたのは東日本大震災がきっかけ。長谷川氏は「米国のフェイスブックでインターンとして働いていた日本人の学生エンジニアが、友人と連絡がとれない状態となった。そこで安否確認機能のプロトタイプをその夜に作り、フェイスブック開発者向けのサイトに載せた」と説明。それをフェイスブックの正式な機能として出せるように改良を進め、「災害時情報センター」となった。

現在の「災害支援ハブ」は被災エリアにいる場合にワンタップで安否を知らせる、さらにエリアにいる人に安否情報をリクエストする災害時安否確認機能である「セーフティチェック」以外に、2017年2月に「コミュニティヘルプ機能」という、物資などの支援をしたい人と求める人のマッチングやメッセージ、情報のやりとりができる機能が追加された。「9月の北海道胆振東部地震でも情報のやりとりが行われていた」と長谷川代表は説明。そして3つ目として、「募金キャンペーン機能」がある。2017年9月に米国から始まり、順次世界に広がっていった。これはユーザーからの募金を、NPOを通じ被災地へ送るもの。西日本一帯に大きな被害をもたらした平成30年7月豪雨では約800万円が集まった。

今年起こった災害でも「災害支援ハブ」は大きな役割を果たしている

モバイル重視の危機管理を

フェイスブックは今年で日本語版スタート10周年。「様々な課題をテクノロジーやコミュニティで解決しようというのがフェイスブックの方針。日本においては災害も当然課題のひとつであり、世界の見本にもなれると思う」と長谷川氏は語る。フェイスブックとしては日本からのフィードバックも含めた機能の拡充のほかに、いざという時に「災害支援ハブ」の機能を役立てられるよう、地方自治体やコミュニティ、メディアを通じた平時における啓蒙活動も強化する。

さらに、自治体やコミュニティとの協業や連携を進めている。3月には大地震の被害を受けた福島県、兵庫県、熊本県から3団体を東京都港区の同社に招いて「震災復興コミュニティサミット」を開催。フェイスブックの公式ページや3団体のページでのこのプロジェクトや各団体の活動を紹介する投稿に対し、アクションやコメント、シェアが行われた場合、フェイスブックから寄付が行われた。寄付金を活用し福島県浪江町で町外に避難している人も集まる花火大会を実施。熊本県では情報発信に生かせるよう、仮設住宅向けにモバイル端末を配布した。兵庫県では阪神・淡路大震災のモニュメント約300カ所を登録し、近くを通るユーザーのチェックインに役立て記憶の風化の防止に役立てている。神戸市とは事業連携協定も締結した。

兵庫県出身の長谷川氏は高校2年生の時に阪神・淡路大震災で被災。災害への思い入れは強い。「当時は情報も入らず、ライフラインも止まった。しかし物のやりとりなど助け合いで人のつながりの重要性を感じた」と振り返った。また、地震の前日まで家族が海外におり、1人で被災する可能性もあったこと、東日本大震災の時はシンガポールに住んでいたこともあり、「今後は単身高齢者も増加する。地理的制約をも越えた支援をできるようにしたい」と意気込む。さらに「人と人とのつながりで課題解決につなげていきたい」としている。

企業や行政に対しては「携帯電話の利用が50億人・80億回線になるなど、世界中でモバイルシフトが進んでいる。ここを念頭に置いた方がいい」と長谷川氏は述べ、「もはや人の中心にモバイルがある。1人1台、ネットに常につながる機器を持っている状態で、モバイルファーストの危機管理を考えることが大事になる」と説明。今後もモバイルを中心に機能拡充に努める以外にも、「様々な企業や行政機関と一緒にやったほうが継続的で地域のニーズに合ったことができると思う」と連携を深め新たな災害支援につなげたい旨を語った。

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(了)

リスク管理.com:斯波 祐介