2018/12/06
防災・危機管理ニュース

一般社団法人日本医療資源開発促進機構は11月27日、第17回「都市防災と集団災害医療フォーラム」を開催した。今回は「今年の災害の総括と展望」と題して、豪雪・豪雨・台風・洪水・地震など多くの自然災害に見舞われた今年1年を振り返り、大災害時に病院などの災害支援拠点としての課題や今後の対策について意見交換が行われた。
病院のBCP、実効性に課題
前半は同機構会長・山本保博氏による講演の後、えどがわ環境財団理事長・土屋信行氏、是真会長崎リハビリテーション病院・理事長の栗原正紀氏、東京大学地震研究所教授で地震予知研究所センター長の平田直氏が、それぞれ基調講演を行った。
えどがわ環境財団理事長・土屋信行氏は、今年1年の水害被害を改めて検証。近年の記録的豪雨について「かつて積乱雲は5〜10kmの範囲で、せいぜい30〜40分待てば通り過ぎた。だが近年は積乱雲が同じ場所で10数回~20回連続で発生している」とそのメカニズムを説明し、「今後も熱帯性低気圧が通過するルートが変わることは考えられない」と警戒を呼びかけた。
また今後さらなる水害に備えて改善すべき課題として、「病院など災害拠点のBCP」「行政の災害警戒情報に対する住民の避難率向上」「港湾コンテナの高潮対策」を挙げた。
地震予知より「予測被害の備え」を
東京大学地震研究所教授で地震予知研究所センター長の平田直氏は、地震災害について今年1年を振り返った。
平田氏は、日本列島内では100~150年前からマグニチュード(以下、M)6程度の地震が年平均19回、M7程度が毎年1〜2回以上起こっているとを紹介。今年も、11月21日までにM6程度が15回、M7程度が1回(北海道胆振東部地震)と、例年通りで起きていると報告した。平田氏は「日本列島において大規模地震はほぼ一定の頻度で起こっているが、大都市圏に近い場所で発生することで建物や人の被害が起こり、大震災と呼ばれているに過ぎない」と常に地震発生の頻度はほぼ一定であることを強調した。
平田氏は「場所は予知できないが、M7程度の地震は毎年1回は起こることがわかっており、もし起きればどの地域にどれだけの被害が起こるまでほぼ予測されている。それぞれの地域で被害予測を把握し、被害に備えることに注力してほしい」とした。有用な情報源として、国立研究開発法人・防災科学技術研究所が作成・運営する「全国地震動予測地図」(http://www.j-shis.bosai.go.jp/map/)を紹介した。
災害関連死ゼロに、全国医療組織が連携
是真会長崎リハビリテーション病院・理事長の栗原正紀氏は、大規模災害後のいわゆる「震災関連死」を防止するため、2011年に医療・福祉・介護事業者の団体が協同で設立した「大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会(JRAT)」の取り組みについて紹介した。
JRATは2011年の東日本大震災以来、震災後、避難所等で暮らす被災者に医師・看護師・作業療法士・理学療法士・介護士・薬剤師などの医療専門家を派遣し、避難所等で生活する被災者に対して、災害リハビリテーション支援として、生活支援や心のケアなどの活動を行っている。現在すでに全国30都道府県に地域JRATがあり、平時は全国6ブロックに分かれる。平時は研修や人材育成などを行い、大規模災害時には被災地の地域JRATが中央本部や他の地域JRATと連携し、支援要員を派遣する体制を構築している。
栗原氏は、「発災後72時間の救命だけでなく、それ以降1カ月を災害関連死を防ぐ新たな救命の重要期間と位置づける必要がある。震災を生き延び、努力次第で助けられる命を確実に救命し、災害関連死をゼロにしていきたい」と活動の重要性を訴えた。
病院のBCP、地域連携とフレームワークで一歩先へ
このほか後半は、3人の講演者のほかに新潟県医師会副会長・小池哲雄氏、大和ハウス工業取締役専務執行役員・堀福次郎氏が加わり、会場参加者を交えてパネルディスカッションを行った。
ディスカッションでは、「病院のBCPの実効性確保に課題がある」とした土屋氏の問題提起について、登壇者からも「具体的想定がわからなければ、対策も難しい」「災害時、病院は入院患者や被災傷病者への対応が精一杯。一般住民が病院に避難に来れば拒むことはできないが、業務がストップしてしまう」など、災害対応の難しさに対する意見が挙がった。
会場の病院事業者からは「病院単独ではなく、自治体や地域、民間企業と連携してBCPを立てていく方がよい」と提案した。またある事業者は、米国の非営利団体DRI(https://drii.org)が運営する病院事業者専用のBCP構築プログラムに基づいた計画づくりを実践していると報告。「世界基準のフレームワークも参考になる」とした。
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
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