冗長化

もう1つ、BCPの対策については冗長化(redundancy)がキーワードになります。下記の表のように、複数化・バックアップ・リプレースなどは合理化・コスト削減とは相反することです。厳しい合理化・コストカットの要請と事業継続対策とをいかにバランスさせるかは、経営判断の問題です。コンサルタント・担当者の作業の結果に基づき経営の視点で自社としてのバランスを決めるべきだと思います。  

事前対策の分類を見ても、常に冗長化が要求され、合理化と相反します。経営判断がポイントです。

リスクファイナンス思想の欠落

BCP 対策を考える上では最後にはキャッシュフローが不可欠になります。各種事故・災害・パンデミック・経済環境の激変 等は最終的にキャッシュフローの悪化をもたらします。したがって事業継続対策については、色々な側面がありますが、最後の決め手は「キャッシュフロ ー」 「お金が回るか」です。このことは今問題にな っている東京電力の状況をご覧になれば明らかです。  

事前対策での費用対効果はもちろんですが、被災時においても、いくらかけて何を復旧すべきかを迅速に選択し、必要な資金を調達しなくてはなりません。

自然災害発生時のキャッシュフロー対策の基本的な考え方について、世界銀行のレポートは「保険と緊急時災害融資と自己資金の最適な組合せが、企業のリスクファイナンス戦略である」 と言っています。

ただし、中小企業においては地震発生時のキャッシュフロー対策については地震保険が頼りにならず、自己資金の保有にも限度があります。中小企業の場合は結局「緊急時災害融資」→「政府の災害復 旧貸付制度」を活用することが最も有効な対策になります。  

私は銀行退職後、ある製薬会社の経理部長を経験しました。企業では「経理・財務部門は営業・製造・ 研究部門とは独立した専門の世界で、他の部門が侵 すべからざる神聖な世界である」ように思われました。そのせいだと思いますが、 リスクマネジメント、 BCP の専門家にとって資金繰りはどちらかと言え ば苦手の方が多いようです。また、金融機関の融資の担当者はリスクマネジメントや BCP(事業継続 計画)にはあまり関心を持たず、知識も持っていないと思われます。  

重要なことは「自社の財務状況やリスクの状況を 勘案しつつ、財務戦略の中で効果的な金融 ・ 財務手 当ての最適化を図ること(*2)」なのですが、東京電力の状況はじめ、多くの企業ではリスクファイナンス対策は現状上手く行っているとは思えません。

(*2):リスクファイナンス研究会報告書 平成 18 年 3 月 経済産業省