編集部注:「リスク対策.com」本誌2013年3月25日号(Vol.36)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年6月28日)

■あるべき姿を可視化する 
まずは前回の復習から始めましょう。組織が災害対応力を高めるために取り組むべきことは、BCPというドキュメントを何度も書き直して立派な計画書を仕上げることではなく、社員一人ひとりに非常時の役割と責任を自覚してもらい、その役割や責任をもとに能動的にアクションを起こせる仕組みを作ることです。BCM(事業継続マネジメント)の本当の意義や目的はそこにあると述べました。そしてBCMが形骸化しないように定期的にその「実力」を測定する必要があることを健康診断の例で示しました。 

さて今回のテーマは、BCMが形骸化しないように定期的に実力を測るには、BCMのどのような側面を測定や評価の対象にすればよいかという話です。次の例をご覧ください。

・学科の成績なら、学力テストの結果や出席率、宿題の提出状況などをもとに評価する
・スポーツの成績なら、その種目に即した運動技能や体力測定の記録などをもとに評価する


これと同じように、BCMの実力を測定するための要素として、何らかの達成要件や活動記録を特定したいわけです。これはどのように考えればよいのでしょうか。学科にしろ、スポーツにしろ、おおよそ成績を評価するためには、「望ましい」とされる到達点が設定されている(成績ならば100点とか)ことを考えると、見えてきますね。ここでは冒頭に述べた一文、すなわち「社員一人ひとりが非常時の役割と責任を自覚し、その役割や責任をもとに能動的にアクションを起こせる体制ができている」ことをBCMの望ましい姿として据え置くことにしましょう。 

次に、このBCMの望ましい姿を実現するためには、具体的にどのようなことが達成されていればよいかを考えます。この考え方は、実は人それぞれのところがあって断定はできないのですが、ここでは筆者の見解として次の3つの要件を提案しましょう。

 ①全員一丸となって速やかに行動できる
 ②リーダーは適切に意思決定し、指揮命令できる
 ③BCPの活動に必要なリソースを確保している

①全員一丸となって速やかに行動できる

初動で活躍する初期消火班、避難誘導班、応急救護班はもとより、災害対策本部の運営、重要業務の継続や復旧活動に当たるすべてのメンバーが、それぞれ自分はいつまでに何をすべきか、そのためには何が必要かを瞬時に理解し、テキパキと行動できることが必要です。これには適切なコミュニケーションが不可欠であることは言うまでもありません。

②リーダーは適切に意思決定し、指揮命令できる 

ここでのリーダーとは、上位では社長をはじめとする意思決定陣を、実務レベルでは業務の継続や復旧を指揮する現場のリーダーを指します。彼らは有事には災害対応活動の求心力および推進力となることが求められますが、平時においても、BCM体制の維持・向上のためのチェックやレビュー、演習・訓練への呼びかけや参加といった役割を担います。

③BCPの活動に必要なリソースが確保できている 

どんなに緻密で合理的な事業継続戦略がBCPに規定されていたとしても、その戦略を実行するためのリソースが確保できなければ意味がありません。IT、人、情報、装置など、代替資源も含め、BCPに必要なリソースが所定の場所に確保されている、あるいは協力先から調達できる仕組みができていることが重要です。


■あるべき姿を支える5つの活動要素 
望ましいBCMの要件を可視化したところで、ここでもう一度、今回のテーマを思い出してください。BCMが形骸化しないように定期的に実力を測るには、BCMのどのような側面を測定の対象にすればよいか、でしたね。 

では、上に述べた3つの要件をそのまま測定や評価の対象として使えるかといえば、まだ少し無理があります。定量的、定性的に捉えようとすると、少し漠然としているため、さらに具体的な活動要素(学科の成績で言うところの「学力テスト」や「出席率」)を特定する必要があるのです。 

これについては、内閣府の事業継続ガイドラインや国際規格にも見られる「演習、訓練、見直し、改善・・」といったあのお決まりのキーワードを参考にすることで解決できそうです。それぞれのキーワードを3つの要件に照らして相互の関わり具合を整理してみると、表のように①∼⑤の活動項目に落ち着きます。 

以下はこの5項目の説明です。


①訓練・教育
BCPにおける訓練や教育は、全員一丸となって速やかに行動し、リーダーが適切に意思決定し、指揮命令を下すために必須の活動です。従来の防災訓練だけでなく、安否確認や緊急点検などの実地訓練や、机上演習などを活用した意思決定やBCPの手順検証に関する演習・訓練も導入して行動力を強化したいものです。また、BCPの方針や手順については、教育オリエンテーションなどを通じて周知理解させることが大切です。

②更新 
更新はBCP(および補助書類)の記載内容が古くならないように最新の情報を維持する活動です。これを怠ると、BCPの活動に必要なリソースをタイムリーに確保できなくなる恐れがあります。人事、事業資産、顧客・取引先など、主要な情報については更新する個所を特定しておき、定期的にメンテナンスしなければなりません。

③見直し・改善 
見直し・改善は、BCP方針や手順について妥当性を再検証し、必要に応じてこれらを変更する手続きです。この手続きのきっかけとなる活動は演習・訓練結果からの気付きや、周辺環境の変化、公的機関の災害想定や防災に関する条例の変更などさまざまです。見直し内容によっては事業影響度分析やリスクアセスメントをやり直す場合もあるでしょう。なお、見直しには経営層による定期的なレビュー(いわゆるマネジメントレビュー)を含むものとします。

④点検
点検の定義として、ここでは機器・備品等の転倒・落下防止などの防災対策やリスク対策が計画通りに進んでいるか、維持されているか、非常時備蓄品等の品目や数量のチェック、入れ替えは定期的に行われているか、事業継続対応に必要な代替資源を速やかに入手できる体制ができているかなどの確認、点検作業を指すものとします。いざというとき当てにしていたリソースが調達できないといった事態は、東日本大震災でも数多く見られました。

⑤リーダーシップ 
リーダーシップは、全社員の心を1つにまとめ、事業継続対応や復旧活動を推進するために不可欠なイニシアチブですが、その意思決定力や指揮命令力に関しては、強すぎても弱すぎても適切に発揮することはできません。このあたり、どのように測定、評価するかがポイントとなります。 

これでBCMの実力を測定するための活動項目を特定することができました。次回は、この活動項目とPDCAサイクルとの関係、実力の評価指標と評価レベルの設定方法などについて説明します。

(了)