2019/01/17
防災・危機管理ニュース
Q:日本企業に対して、今後サイバーセキュリティ対策の指針になる指標はありますか?
K:アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が定めた企業のサイバーセキュリティ対策基準「NIST SP800-171」は、今後世界中のあらゆる企業が参考にできると考えています。
■「NIST SP800-171」日本語訳版(出典:独立行政法人 情報処理推進機構)
https://www.ipa.go.jp/files/000057365.pdf
この基準は、もともと米国政府に関連する「機密情報以外の重要情報(CUI)」を取り扱う企業・組織に求めるサイバーセキュリティ対策の基準として2015年6月に発表されました。これを受けて米国防総省では、同省と取引する企業に対して、この「NIST SP800-171」の基準を遵守することを実質的要件としており、その業界に属する世界中の企業が適用に動いています。
Q:具体的にはその基準はどのような内容になるのでしょうか?
K:この基準の第3章は14のカテゴリーで構成され、全110個の要件が細かく提示されています。この全ての要件を満たすことで初めて、CUIの対象となる情報を保護できていることが認められるのです。
ーーーーー
・1 アクセス制御 22項目
・2 意識向上と訓練 3項目
・3 監査と責任追跡性 (説明責任) 9項目
・4 構成管理 9項目
・5 識別と認証 11項目
・6 インシデント対応 3項目
・7 メンテナンス 6項目
・8 メディア保護 9項目
・9 人的セキュリティ 2項目
・10 物理的保護 6項目
・11 リスクアセスメント 3項目
・12 セキュリティアセスメント 4項目
・13 システムと通信の保護 16項目
・14 システムと情報の完全性 7項目
ーーーーー
企業が一つひとつの項目で基準を満たしていくことは大変な労力がかかりますが、これを適用することで企業は大きくサイバーセキュリティの防御力を強化できます。
Q:この規格が今後、企業のサイバーセキュリティ対策の世界標準になるでしょうか?
K:この基準により、企業は情報を守るために自社が何をすべきかということを非常に明確にすることができます。実際にこれが企業に適用されれば、企業のサイバーセキュリティはかなり強化されるのではと思います。
世界標準になるかどうか、もちろんその確証はありません。でも例えば米国で、政府から官公庁を通じて企業に対し一定のサイバーセキュリティを要件化することで実質的な業界標準になりつつあるように、政府主導のモデルが今後各国に広まれば、世界標準になり得ると思います。
Q:最後に日本企業の皆さんにアドバイスをいただけますか?
K:サイバーセキュリティは、個別企業の対応では完結せず、取引のあるサプライチェーンすべてが対応することを求められます。サプライチェーンに属する企業の一つでもセキュリティが不十分であれば、そこからすべてのサプライチェーン企業に脅威をもたらしてしまいます。この点では、世界中のどの国の企業であっても、一定レベル以上の基準を満たしていく必要があるのです。
米国のように政府が企業に対して一定のサイバーセキュリティ基準を要件化すれば、民間企業にも急速に広がっていくでしょう。今後米国モデルが世界中に広がれば、日本でも同様のことが起きる可能性があります。
日本では2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控えています。このような国際的イベントは、日本政府が変革する原動力となり、ITセキュリティが大きく進展する良いきっかけになるでしょう。サイバーセキュリティ対策に先進的に取り組むことで、日本企業にとって競争力の源泉になることを願っています。
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
- keyword
- サイバーセキュリティ
- RSA
- インタビュー
- NIST SP800-171
- デル
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
「防災といえば応用地質」。リスクを可視化し災害に強い社会に貢献
地盤調査最大手の応用地質は、創業以来のミッションに位置付けてきた自然災害の軽減に向けてビジネス領域を拡大。保有するデータと専門知見にデジタル技術を組み合わせ、災害リスクを可視化して防災・BCPのあらゆる領域・フェーズをサポートします。天野洋文社長に今後の事業戦略を聞きました。
2025/10/20
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/14
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方