第9回 自治体の事業継続計画(下)

小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
2016/07/08
業種別BCPのあり方
小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
はじめに
東日本大震災の教訓を受けて、自治体においても何らかの事象により経営資源が大きく損なわれる事態を想定し、平常時に行っている業務を可能な限り絞り込んで継続しつつ、初動や応急対応に最大限の経営資源を集中するための計画を策定しておくことが強く求められている。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年5月25日号(Vol.42)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年7月8日)
この計画が事業継続計画(BCP)であり、計画策定や維持・更新、事業継続を実現するための予算・資源の確保、事前対策の実施、取り組みを浸透させるための教育・訓練の実施、点検、継続的な改善などを行う平常時からのマネジメントを事業継続マネジメント(BCM)という。
自治体における事業継続計画策定のプロセス
内閣府「事業継続ガイドライン(第三版)」は、BCP策定までの手順として、方針の策定、分析・検討、事業継続戦略・対策の検討と決定、計画の策定といったプロセスを挙げている(表1)。このプロセスは、自治体においても共通であるが、組織の特性上の注意点もある。本稿では、この項目に沿って、標準的な策定手法を解説し、先進事例を紹介する。
基本方針の策定
災害対策基本法5条は「当該市町村の地域並びに当該市町村の住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該市町村の地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施する責務」を市町村の責務と定める。
災害救助法は「被災者への生活支援」の実施主体を市町村としている。市町村における災害対策においては「生命及び財産の保護」「被災者への生活支援」とは欠かすことができない基本方針となる。 これに加えて、別の方針を掲げる東京都区部の事例を表2に示す。
表2の中で下線部を付した部分が、方針策定に当たって注目するべきポイントである。港区は、「優先度の低い通常業務は積極的に休止・抑制します」とする方針を明確にしている。
北区や葛飾区は、区役所以外との連携を方針に加えている。地域との連携が大きなテーマになっている防災行政の現状を考えると、これらは参考となる。
実施体制の構築では担当者の設置が必要
BCPの策定やBCMの実施に向けた体制の構築に当たっては、全部局に担当者を設置することが重要である。防災部局だけでBCP策定の検討を行っても、各部局が抱える業務の詳細は分からず、策定は困難である。また、防災部局が頑張るほど「BCPは防災部局の所管」という意識を醸成する。
しかし、どこの自治体でも災害に伴い全庁体制が指示されれば、全職員が非常参集し、対応に当たることになる。災害への備えは防災担当部局だけではなく、すべての部局の問題であることを理解させるうえで最も有効なのは、担当責任者を設置することである。
京都市では、各局の庶務担当部長に消防局防災危機管理室担当部長の併任辞令を発令し、全部局の関与を担保している。すべての部局の関与を確保するための取り組みとして参考になろう。
業種別BCPのあり方の他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方