2019/02/25
安心、それが最大の敵だ
現在も尾を引く問題
彼が構想し、東京市が免許を得た高速鉄道の計画は、太田の死後、昭和2年(1927)の金融恐慌から続く不況のもとで挫折した。わずかに「地下鉄の父」と呼ばれる早川徳次が推進した東京地下鉄道が、同年12月30日浅草~上野間に開業し、昭和9年(1934)新橋まで路線を延長した。今日の東京メトロ銀座線である。しかし、これもその後は東京市の免許線との交錯、さらに大正7年(1918)以来、渋谷~新橋間の地下鉄建設をもくろんで、みずから支配する東京横浜鉄道の都心乗り入れを図る五島慶太(現在の東京急行電鉄の創始者)の東京高速鉄道との対立などが起こった。帝都高速度交通営団(現在の東京メトロ)の設立によって、その悶着は「解決」されることになる。
東京市は、自らが保持する高速鉄道免許路線を楯として、他の鉄道企業が山手線にかこまれた都心部における鉄道の建設計画を阻止する立場をとった。これが「山手線の壁」をつくる最大の原因となった。そのような立場をとりながら、みずからが保持する渋谷~新橋線の免許を東京高速鉄道に譲渡するという措置を取ったのである。
東京における交通機関、とくに高速鉄道の整備は関東大震災の後にようやく計画がまとめられたが、それは1920年代後半の不況に加えて、政治家の思惑や企業の利害に左右され、その成果を挙げることが出来なかった。今日の東京における鉄道網問題は、この時に根本的な解決方策がとられなかったことに根源がある。
付記:太田は、隅田川六大橋(下流から相生橋、永代橋、清洲橋、蔵前橋、駒形橋、言問橋)をはじめとする「震災復興橋梁」の建設を、橋梁課長田中豊と共に主導した。太田の残した後世への大いなる遺産である。
参考文献:「日本の鉄道―技術と人間―」(原田勝正、刀水書房)、伊東市教育委員会資料、筑波大学附属図書館文献。
(つづく)
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方