2019/03/29
危機管理の神髄
最も弱いリンクと同程度の強さしかない
シームレスは、膨大なグローバル・ロジスティクス・システムの中に埋め込まれたクモの巣のように細かいサプライチェーンと我々を結びつけるオンライン・アプリである。サプライチェーンは、エビをレストランの冷蔵庫に、血液を病院の冷蔵庫に入れるために、地球上に張り巡らされ、24時間稼働している。これらのチェーンのどの一つも、農家から工場へ、さらに倉庫から小売店へと、数十のリンクを有している。
グローバル・ロジスティクス・システムは想像しうる最も大きく複雑な野獣である。数十万のデータベースから成るものであるが、それを理解できるのは一握りの専門家のみである。その洞察でさえ無欠ではない。それぞれの専門家の知識は自分の、あるいは自分の側のもういくつかのリンクに限られているからである。地球を取り巻くように延び、自然災害・政治不安・サボタージュなどあらゆる種類の多様なリスクにさらされている脆弱な多数のサプライチェーンを理解する者はほとんどいない。そのすべてがどのようにして一つに合わさり、どこに地雷があるのかを誰も知らない。誰もが確実に知っている唯一のことは、どのチェーンも最も弱いリンクと同程度の強さしかないということである。
社会を生かすために必要な循環システムである。そのプロセスは迅速に動くという意味で“むだのない”ものである。バングラデシュの養殖業者からのエビは数日、あるいは数時間でその辺の中華料理店に届く。チェーンを上下して、リンクとリンクはジャストインタイムで繋がる。長く静止することはない、貯蔵されないというのは会社にとってはコストの節約である。
アマゾンやアリババのような革新者は可能性の限界を次々に押し広げている。今日必要な物はすべて今日入手することができるので、何も貯えておくことはない。この真新しい世界は素晴らしい。それがそうでなくなるまでは。
あの2015年8月の暑い夜のように、シームレスのオンライン・アプリを動かしているサーバーが突然停止して、ニューヨーク中がパニックに陥ったときのように。マンハッタンやブルックリンのトレンディな場所で、腹を空かしたヒッピーが来ることのない注文品を何時間も待った。我々の知る限り、ほとんどのヒッピーは生き延びた。しかし彼らは食べ物を探して、ということはつまり生身の人間と話をするために、外へ追い出された。こんなことは、いつもそう容易であるとは限らない。
(続く)
翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300
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