2019/03/29
危機管理の神髄
大きな一体となった災害 パート2
夜遅く 土曜日 ニューヨーク市ブルックリン区ウィリアムズバーグ
帰宅して曲がりくねった階段をやっとのことで登る。新調したソファーをタクシーに積んで、自分で階段を運び上げることなどできないので、泣く泣く配達料150ドルを払うことにした。
今日はいい日だった。レジの長い列で女性と話をした。見知らぬ人と話をするなどはめったにないことだ。彼女は大学を卒業したところで大都市からの脱出を考えていた。「ブルックリンは人間のジェンガ(積み木)みたいなところね」と言った。「こんなところでは生きてゆけないわ。昨日トマトを買いに行ったら・・・」
もう遅い。あのシナモンロールの後、何も食べていない。シームレスを使ってテンアイク通りの角にある小さなレストランからタイ料理を注文することにする。別名グラブハブとも言われるシームレスはやたらに人気のある食事の宅配サービスであり、人を介さずにレストランから料理の配達を受けることができる。しかし何かの理由でシームレスが動かない。何度も繰り返しやってもう20分になる。もう一度やってみる。何かおかしい。ツイッターをチェックする。
「ニューヨーカーの皆さん、シームレスが故障しています! 訓練じゃないですよ。屋内にとどまり、身を守ってください」
「ニューヨークの土曜の夜だぞ。それでシームレスが故障⁉ だから、こんなことになるんだ」
市中のいたるところで、人間どもは小グループになって携帯電話にかじりついている。唯一聞こえるのは、胃が低く不満の声をあげている音である。目は周りを盗み見る。腹をすかして機嫌の悪いヒッピーが生きる力と意欲を得ようと仲間の品定めをしている。今夜、シームレスが故障している。誰かが死ぬであろう。
ついにあきらめて、空っぽの胃を満たすものが何かないか、台所の小さな戸棚をガサゴソあさる。冷蔵庫に先週からの食べ残しのタイ料理があるほかは、ドライ・シリアルと(ミルクはない)、ポテトチップスが袋に半分あるだけである。ポテトチップスを食べて、歯を磨いて、ベッドに倒れ込む。
期待が大きい
シームレスは我々に驚くべきレベルのサービスと信頼性を与えてくれる先端的な重要インフラの例である。
シームレス大災害から生き延びることができたのなら、狭苦しいアパートで目を覚まし、スカイプでシンガポールの友人にこぼし、空港への途中スマホでグラブハブの株を売り、機内で夜通しハリウッドのゴシップのおさらいをし、サンフランシスコに到着してユニオンスクエアでの戸外のランチに滑り込む。
これらのシステムの信頼性によって期待のレベルはいやが上にも高まる。
シームレス大災害というのは作り話である。2015年8月、暑い土曜の夜に短い中断があった以外には、シームレスのサーバーが停止したことはない。それゆえ我々はいつも並外れたパフォーマンスと信頼性を期待することになる。そして大体はそれらを得ている。
しかし不都合な点もある。システムが進化するにつれて、パフォーマンスと信頼性は分岐を始めるからである。進化するのは複雑になるということである。その複雑化はもろさをはらんでいる。パフォーマンスの高まりは、信頼性の低下によってのみ可能となる。期待が膨らむとともにリスクも大きくなる。
人間である以上、私のリスク知覚は感情や経験を含む多くの偏見の影響を受けている。こうした偏見は社会にはびこり、我々のリスク知覚を現実から切り離している。我々が危険な将来に備えて今なすべきことをなすことができないのは、この分断の故である。
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