2019/04/01
安心、それが最大の敵だ

福島県令就任へ
明治14年8月、三島は福島県令を兼任せよと政府から命じられた。内務卿松方正義は三島と同じ薩摩閥である。「14年政変」(後述)前に内務卿に就いた松方は不平士族や自由民権派を徹底弾圧し、全国の警察を掌握して集会や演説から新聞雑誌の発行まで干渉した。言論の自由を奪った。
戊辰戦争で薩長軍(西軍)に「賊軍」として叩きのめされた福島県では、藩閥政府批判の動きが台頭していた。県令山吉は福島自由党の総帥河野広中(ひろなか)の意を受けながら県政を預かっていた。内務卿松方は14年8月、三島に福島県令兼務を要請した。
同年10月3日、三島県令が、明治天皇をお迎えして栗子山隧道工事の開通式を行っている頃、随行の参議筆頭頭大隈重信を閣外に追放する話が刻々進められていた。それから18日後の10月21日に政変が勃発し、大隈重信とその一派は政府から追放された。「14年政変」である。事の起こりは伊藤博文が憲法を制定し国会を開会して民意を採用しなければならないとして、大隈重信と井上馨に憲法草案を示して相談したところ、大隈は伊藤の草案より急進的草案を作成して、左大臣・有栖川宮熾仁(たるひと)親王に提出し天皇に上奏するまでは極秘にするようにと口止めしていた。
大隈は薩摩・長州の参議ら政府幹部を悪者扱いにして、民権派の勢力と提携し、自らの手によって政権を支配する野望を遂げようとした。これを知った伊藤は、薩摩・長州派の結束を固め、右大臣・岩倉具視を中心に巻き返しを図って遂に大隈とその一派を追放した。
政府は10月20日、9年後の明治23年(1890)に国会を開設する大詔を渙発して世論を静め、その間地方の民会等によって民衆の理解を求めた後、国会開設に踏み切ることにした。10月29日、自由党が結成された。総裁は板垣退助だった。自由党は、即時国会を開設せよと叫び、過激な言動をもって政府批判をした。一部には政府高官を暗殺し、官庁を襲撃して政権を奪取しようとする不穏な動きもあった。言論界の批判的論調や民権論者の過激な行動は、政府の危機意識をあおり、政府は厳重に取り締まる必要があった。政府は<剛腕>三島通庸に白羽の矢を立てた。三島は井上毅から政府が転覆するのではないかとの危機的状況を聞かされ、大隈らその一党が薩長派を追放しようとたくらんだことを知ると、福島県令を引き受ける決意を固めた。
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