2019/03/25
企業をむしばむリスクとその対策
□解説:品質とは顧客の要求事項を満たすもの
品質とは何でしょうか? 品質マネジメントの国際規格であるISO9000シリーズでは、品質を次のように定義しています。
「本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」[ISO 9000:2005]
難しい文章ですが、この定義の特性とは、買い手が求めているレベルとも言い換えられます。つまり、品質は、買い手である顧客が求める特性に対し、どれだけ要求を満たしているかにより「良い/悪い」が評価されるということです。なお、品質には機械や食品などの「製品」だけではなく、「サービス(接客態度、正確さ、清潔さ、アフターフォロー、対応の早さなど)」にも適用されます。
製品やサービスの品質が悪い、または低下した企業はおのずと淘汰(とうた)されていくことは自明ですが、品質とは、自分たちがその良し悪しを勝手に判断することではなく、あくまでも「顧客の要求事項を満たす」かどうかであるということを肝に銘じなければなりません。
実は、今回の事例は実際にあったことですが、問題の発端となったのは「内部告発」でした。2006年からの公益通報者保護法施行もあり、今や企業内にある社会に対する「うそ」を隠し通すことはできなくなりました。長年の「うそ」が発覚し、存亡の危機に追い込まれてしまう企業の例は昨年も数多くみられました。
□対策:優先事項を明確にし合意しておく
企業活動においては「QCD」という言葉がよく使われます。それぞれQ=Quality=品質、C=Cost=コスト、D=Delivery=配達・納期を指したもので、このそれぞれについて目標を定め、そのための手段を組み立てるのがビジネスにおいて重要なことであるといわれています。
「QCD」は、もちろん全てを最適化するのが最善ではありますが、それぞれの項目はトレードオフ(品質を上げようとするとコストが上がる、納期を短くしようとすると品質が下がるなど)の関係にある場合が多く、内在するリスク(品質不良、納期遅延、コスト高など)のどれを重要視するかも社内の担当によって意見が異なることがよくみられます。その業務においてQCDの何が優先されるかを明確にし、理解を得ていないと、各担当の考えの違いによってリスクが顕在化してしまう可能性が高くなってしまうのです。
また、事例にある「安全基準が過剰……」の問題は、この場面で指摘されるべきではないはずです。もし「過剰品質」だというのであれば、事前の製品仕様の要望や交渉の時に詰めておくべき問題です。A社の行為は、顧客の要求事項を自社の都合の良いように解釈し、製造した「品質不良」そのものです。
今回のリスク:主に管理職と従業員が考えるべき「製品・サービスに関する」オペレーショナルリスク
(了)
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