先輩風を吹かせた注意喚起を少しだけ(応急危険度判定について)【熊本地震】(4月23日のFBよりその2)

室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
2016/04/23
室﨑先生のふぇいすぶっく
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
すでに解決されているとは思いつつ、何もネパールからと思いつつ、先輩風を吹かせた注意喚起を少しだけさせてください。
応急危険度判定も、それに続く被災区分判定(被災者ニーズにこたえる形で、修理して住めるかどうか、建て替えをしたほうがいいかなどを、建築の専門家が判定するもの)、それとは別の文脈で行わる罹災証明(住家被害認定)(被災者の経済的被害の程度を行政として認定し、義捐金の給付や住宅再建支援金の補助などの支援につなげる)の3つの判定の区別と連関を正しくとらえる必要があります。
(1)それらは、被災者の安全確保、住宅再建、生活支援につなげるもので、行政の論理ではなく被災者の論理で、弾力的に運用されるべきです。
たとえば、応急危険度判定は被災者の安全を守るためのものですが、大切なものを早く取り出したい、後片付けをして早く戻りたいといった、被災者の気持ちにもこたえるものです。となると、「赤」や「黄」でも、その判定の根拠になっている原因事象について検討し、十分な対策を施せば限定的に、建築士や重機ボランティアの協力の下で、入れるようにしてあげたいと思います。ここでは、建築ボランティアや重機ボランティアとの連携が欠かせません。赤だから入ってはいけないというとともに、赤でも入れるようにどうしたらいいかを考えなければなりません。
(2)被災度区分調査は、タスクが多い中でそこまで手が回らないので後回しにされがちですが、被災者にとっては将来に夢をつなぐためには、欠かせないものです。いわゆる住宅再建相談の一環としてなされるべきだと考えています。「住める、住めない」の判断は、建築構造の専門家が責任を持って行うべきものですが、その判定結果を踏まえどうすればいいかを相談できる窓口を設けておく必要があります。避難所の中に、建築士、家屋調査士、弁護士、不動産管理者などが同じテーブルについて被災者の相談に乗るシステムが必要です。
(3)罹災証明こそ、被災者の立場でしなければなりません。「必要に応じて必要な支援が受けられる」ためには、被災度が正しく認定される必要があります。その手続きについて詳しく説明しませんが、あまり知識のない人が形式的基準で「えいやー」とするものではありません。早く終えたいという効率性は要求されるのですが、それ以上に被災者に寄り添う適確性が要求されます。被災者は、病気の診断のように「名医」(プロの専門家)にしっかり見てほしいと、思っているはずです。建築士会などの協力は言うまでもなく建築系の学生のなどにも協力を呼び掛けてほしいと思っています。
(4)いづれにしても膨大な数の建築の専門家が必要になります。西原村など救援の手が入っていないところでは、応急危険度判定も遅れています。それができないと、再び危険な住宅に入り込んで犠牲者が出る、ボランティアの負傷者が出るといったことが、懸念されます。だからこそ、建築系のボランティアの皆さんのご協力をお願いします。
それに加えて、応急危険度判定、被災区分判定、罹災証明は、目的が違っても、その判定のベースになる被災家屋の状況は同じです。同じような調査をここバラバラに行うのではなく、データを有機的にバトンタッチをして受け次ぐ、家屋ごとにチーフ建築士を指定して、そのコーディネートの下に無駄のない支援をはかるといった、連携性や連関性への模索が欠かせません。
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