「子供か避難生活か」という2者択一的な図式で、学校の再開を考えてはなりません(避難所運営について)【熊本地震】(5月3日のFBより)

室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
2016/05/03
室﨑先生のふぇいすぶっく
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
日本に帰ってきて、素晴らしい支援活動が様々な形で展開されいることから、「支援の大きな進化」が確認でき、感動をもって受け止めています。ただ、阪神や東日本よりも進んだということで、喜んでいてはなりません。それこそ自己満足です。要は、被災者の苦しみが解放されたかという視点で、行政対応や支援活動を評価しなければなりません。
「そんなことわかっているし、最大限の努力をしているので、現場も知らないものから、あれこれ言われる筋合いはない」とおしかりを受けそうですが、「学校再開を急ぐあまり、避難所を集約する」という報道を聞いて、また「余計な口出し」をしたくなりました。
避難所の乱暴な集約化は、被災者をより過酷にし、関連死や永遠に消えない傷を被災者に押し付けるに違いないと思うからです。
もっとも、教育はとても大切で、アメリカでは最初から学校を避難所に使わない、北但馬地震では震災の翌日から校庭にテントを立てて学校再開をはかっています。ただそのいづれもが、被災者に犠牲を押し付けてはかられてはいません。安心して避難生活をおくれる場所を確保して、教育の再開や子供の環境確保をはかっています。
子供の教育と避難生活の改善を天秤にかけてはいけません。両立できる道を、行政の責任で見出さなければなりません。熊本市内にあるオフィイスビルなどを借り受け臨時教室にし、通学バスと臨時教室とをセットにした形で、学校の再開をはかる。
一方で、被災者が元の家に帰れるよう、危険度判定と修復を急ぐ、みなし仮設の提供に力を入れることに努力を集中するとともに、快適な新しい避難所の確保に努めることです。その結果として学校にゆとりが生まれれば、校庭に仮設教室をつくることもふくめ、第2段階目の学校再開を実現するのです。
いづれにしても、「子供か避難生活か」という2者択一的な図式で、学校の再開を考えてはなりません。
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