2019/05/27
安心、それが最大の敵だ
平成の大改築事業

東京オリンピックは戦後日本の発展ぶりを世界に示し、成功裡に終了した。だがオリンピックに間に合わせるために、急ピッチで造られた武蔵水路の施設は半世紀を経て老朽化が進んで傷みが激しく、数々の不具合が生じてきた。
通水後35年以上を経て、水路沿線の地盤沈下と水路自体の損傷さらには老朽化が大きな問題になった。地盤沈下については、国道125号を潜る行田市の長野サイホン付近、最下流の鴻巣市糠田地区の区間で特に著しい。地盤沈下の影響による水路の沈下・変形、底板隆起や側面パネルの欠損などが発生し、このため本来ならば毎秒50立方メートルの導水機能を有していながら、毎秒40立方メートル以下の水しか導水できないという機能不全の状態に陥った。耐震性の低下や不足も指摘された。大規模地震が発生し、この地域で予想されている最大震度である震度6強の揺れが生じると、水路や付帯施設に甚大な被害が発生する恐れがあり、この場合には長期の通水不能や周辺地域への被害や影響が予想された。
突貫工事で完成した武蔵水路は、全面的改修が必要な時期が来ていた。管理者である水資源機構が改築事業を計画し、最先端技術を駆使して全面的な改築工事を行ない、2015年度(2016年3月)に工事が完成した。
幹線水路は、従来の断面が逆台形のコンクリートライニング構造から、耐震性の高い断面が矩形の鉄筋コンクリートフルーム構造へと大規模な改築となっている。 新しく改築された区間は、中央に分離壁が設けられた狭い水路が2本平行したような構造になっている。これは、メンテナンスを行うときに片方の水路のみを止水し、もう片方の水路は通水したままにしておくことで、メンテナンス中の通水を確保するためである。サイホンや水門の耐震工事、糠田排水機場のポンプ増強、管理設備の更新などが行われている。
平成の大改築事業は、高度技術が評価され、平成27年度(2015)土木学会の技術賞(技術賞IIグループ)に輝いている。
参考文献:拙書「砂漠に川ながる、東京大渇水を救った500日」(ダイヤモンド社)、水資源機構資料、筑波大学附属図書館資料。
(つづく)
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