東日本大震災の翌日、仙台市の避難者数は10万5947人(人口の約10%)を数えた。一方、熊本地震では本震翌日(4月17日)の熊本市の避難者数は10万8266人(人口の約15%)であった。ただし、これらの避難者数は指定避難所に避難した人数であり、自治体による支援物資供給の基準は、こうした「指定避難所に避難した人のニーズ」であった。しかし、2つの地震の直後には自宅、公園、自家用車を含む指定避難所以外の多くの場所で膨大な数の人々が支援物資を求めていた。

災害対応支援地図(提供資料より(研)防災科学技術研究所が作成)

小規模災害の場合に「指定避難所に避難した人のニーズ」を支援物資供給の基準とすることは、正しい。指定避難所に避難しない人は避難する必要が無い人であり、避難する必要が無い人には支援は必要ないからだ。しかし、東日本大震災や熊本地震では指定避難所以外の多くの場所から人々が支援物資を求めて指定避難所を訪れ、自治体の想定を超える支援物資ニーズが発生した。指定避難所は実態的には地域の支援物資供給所であったのだ。これを踏まえれば、大規模災害では「指定避難所および同周辺(指定避難所を含む行政区域)に所在する人のニーズ」が支援物資供給の基準となる。ただし、大規模災害であっても発生場所次第で支援物資所要は大きく異なる。自治体は、災害の規模と地域の特性に応じてどちらの基準を適応するかの判断基準を持っておく必要がある。

 

プッシュ型は東日本大震災以降に支援物資の供給要領の選択肢となった。このため自治体は、支援物資の供給要領をプル型にするかプッシュ型にするかを判断する必要が生じた。熊本地震の際に熊本市は、避難者数が10万人を超え、道路を含むライフラインや自治体庁舎が甚大な被害を受けている中でもプル型を選択した。この時点で熊本市は、ニーズ把握の遅延、職員の被災による人手不足、輸送の遅延などによってプル型が機能不全に陥ることを予期し、プッシュ型を選択することも可能であったと思われる。しかし、支援物資の供給要領をプル型にするかプッシュ型にするかは被災者と自治体に大きな影響を与える判断であり、自治体は明確な判断基準を持って決定する必要がある。この際、被害予測と災害が発生した季節・天候・時刻などを踏まえて必要となる支援物資の種類・量(ニーズ)を予測し、支援物資の備蓄量、輸送能力などを加味してプル型かプッシュ型かを決定するためのデータベースの整備やソフトウェア開発が必要となる。