日本大学危機管理学部教授 吉富 望氏

熊本地震で、大きな課題となったのが物資の支援だ。政府は4 月16日の本震を受け、自治体からの要請を待たず、非常食90 万食や子ども用紙おむつなどを「プッシュ型」で被災地に届けると発表した。が、被災地にはなかなか必要とされる支援物資が届かないなど問題は長期化した。元陸上自衛隊将補(陸将補)で日本大学危機管理学部教授の吉富望氏に解説していただいた。


残念なことに、熊本地震における被災直後の支援物資供給の場面では5年前の東日本大震災と同様、被災者は支援物資の不足と遅配に耐え、自治体は支援物資を供給できずに苦悩した。本稿では、2つの大災害が突き付けている被災直後の支援物資供給の課題を探ってみた。

熊本地震における支援物資の供給要領

災害時における支援物資の供給要領には「プル型」と「プッシュ型」がある。プル型は支援物資のニーズ把握が可能な被災地へ、ニーズに応じて物資を供給する基本的な支援物資の供給要領であり、プッシュ型はニーズ把握が不可能な被災地へ、ニーズ予測に基づき物資を供給する要領である。プル型は必要な支援物資を無駄なく提供できる利点がある一方、被災直後の混乱の中ではニーズ把握に時間を要し、結果的に支援物資の供給が遅れる欠点がある。一方プッシュ型は、ニーズが把握できない場合でも迅速に支援物資を提供できる利点があるものの、受け手側の自治体が被災直後の混乱のために物資受け入れが滞ったり、ニーズ予測が外れた場合に支援物資の余剰・不足が生じたりする欠点がある。東日本大震災では基本的にプル型で終始したが、熊本地震では発災直後にプル型が実施され、2日後には政府主導でプッシュ型に移行し、その4日後には政府がプル型に戻した。

全国から被災地に届けられた支援物資 写真:UPI アフロ