日頃の関係構築の積み重ねが重要

連載の第4回で、こうした事例を「社会関係資本」(個人またはグループが利益を得ることのできる社会的つながり、社会的信頼)としてご紹介しました。社会関係資本は、システムの中と外の世界をつなぎ、他のキャピタルが復旧するためのゲートウェイの役割を果たしていました。連載の中で、このような社会関係資本の働きは日本ならではかもしれない、というお話をしましたが、事前につながりのない団体同士でキャピタルのやりとりがなされるというのは、日本の中でも自治体ならではの特殊なケースだと思います。自治体と企業、自治体とNGO、あるいは企業同士の関係の中では、日頃の関係構築の積み重ねが重要になると思います。

日頃の関係構築は、共通の組織資本に向けた一定のルールを共有することに役立ちますし、お互いの組織内の人々が日常的にどのようなドメインナレッジを蓄積しているのか把握することにもつながります。こうした日常の積み重ねが、いざという時の対応に効いてきます。

ネパール地震に学ぶ社会関係資本の働き 

社会関係資本の働きを示す一つの例として、ネパールの事例をご紹介します。2015年に起きたネパール地震の後、デジタルボランティアと呼ばれる人々と彼らの活動が、復旧に大きな影響を与えました。

カドマンドゥ・リビング・ラボ(KLL)は、2013年に設立されたテクノロジーコミュニティーです。彼らは、インターネットベースの技術ソリューションを実装、提供することによって、便利で暮らしやすい街づくりを目指しています。テクノロジーコミュニティーという言葉は聞きなれないかもしれませんが、このコミュニティーの特徴は、構成メンバーが、ITソフトウェアのスタートアップ企業や技術インキュベーター、大学の研究者、そして地元のデジタルボランティアで構成されている点です。技術開発や実装に関係した団体や個人が集まっているコミュニティー、と理解していただければよいかと思います。デジタルボランティアとは、何かしらのITスキルを持っている個人が、ボランティアで活動に参加する形態を指しています。

日本では東日本大震災の後にCode for Japanという団体が発足し、デジタルボランティアのハブとなりました。KLLも、さまざまな団体や個人のネットワークハブだということができます。その点では、社会関係資本の固まりともいえるかもしれません。

2015年のネパール地震の後、KLLはチャットルーム、マッピングツール、Eメールシステム、GPSシステムなどのデジタルツールを開発しました。この活動には3300人のボランティアが、ネパール国内外からリモートで参画しました。地図上に被害状況などを報告することのできるマッピングツール(QuakeMapと名付けられています)には、地震発生から48時間以内に、被害者のニーズと救援活動に関する1500のレポートが投稿されました。これらの活動は、世界銀行などとの協力に発展していったのです。

QuakeMap開発の様子(出典:http://www.kathmandulivinglabs.org/projects/quakemaporg)

KLLの活動は国際的な広がりを見せていましたが、一方で、被災地で支援物資や救援の第一線に当たっていた自治体やネパール政府との関係性がなく、KLLの活動が実際の救援活動に生かされるのには時間を要しました。日頃こういった政府機関との関わりがなかったため、当初KLLの活動は政府機関から信用されず、連携が進みませんでした。KLLの活動が国際的な広がりを見せ始め、国内外のメディアでその活動が報道されるようになって初めて、信頼を獲得することに成功しました。その後、政府や自治体の支援活動にKLLが開発したツール群によって得られた現地の情報が活用されるようになり、KLLは復旧プロセスに多大な貢献をすることになりました。