2019/07/04
レジリエントな社会って何?
その地域に根差した現場情報が重要
キャピタルの議論からは少しずれますが、創造的対応の鍵を握る要素として、「その地域に根差した現場情報」があります。KLLがさまざまなデジタルツールで収集をした情報は、その地域に住む人々が投稿する被害状況であったり、KLLのメンバーでもある医師が報告する被害者のニーズ情報といった、現場でなければ知り得ない情報でした。KLLのメンバーたちが被災地域の地理や状況に精通していたからこそ、このような情報を集めることに成功した、ともいえます。どんな災害であっても、日頃の慣れから生まれるドメインナレッジと同様、現場の状況に精通した人や情報は非常に重要となります。
話をキャピタルに戻しますと、KLLは社会関係資本の固まりのような組織です。災害対応だけに特化しているわけではありませんが、KLLに参画するそれぞれの団体がそれぞれの強みを生かしてデジタルツールを開発していくことに共通点があります。ただ、このネットワークには、政府組織や地元自治体と協働のチャンネルがありませんでした。いざ災害が起こると、災害支援のため、このチャネルの重要性が明らかとなりましたが、信頼構築には時間を要することになりました。
災害はいつどこで起こるか分かりませんが、キャピタルの復旧に必要な社会関係資本を日頃構築していくことが大切だと思います。その際には、連載第4回でも述べたように、内部の人間しかできないこと、外部の助けを必要とすること、を区別して考えておく必要があります。
このような社会関係資本は、ドメインナレッジと連結していることが望ましいといえます。単に社会関係資本を構築するだけではなく、その関係性の中にドメインナレッジを共有することが理想です。つまり、前回ご紹介した共通の組織資本作成のルールと同様に、社会関係資本の中にも共通のツール(KLLの事例で言うとQuakeMapのような、共通の地図上に誰でも投稿できるシステム)であったり、共通のドメインナレッジ(ネパールの例では、各支援組織間でドメインナレッジは共有されていませんでしたが、KLLに参画していたデジタルボランティアのITスキルは一定基準を満たしており、ツール開発に支障はありませんでした)を保有することができれば、いざ災害が起きたときに、迅速で、創造的な対応が可能となるのではないでしょうか。
* A. Dean and M. Kretschmer, “Can Ideas be Capital? Factors of Production in the Postindustrial Economy: A Review and Critique,” Academy of Management Review, vol. 32, no. 2, 2007, pp. 573-594. および M. Mandviwalla and R. Watson, “Generating Capital from Social Media,” MIS Quarterly Executive, vol. 13, no. 2, 2014, pp.97-113. を改変。
(了)
レジリエントな社会って何?の他の記事
おすすめ記事
-
「防災といえば応用地質」。リスクを可視化し災害に強い社会に貢献
地盤調査最大手の応用地質は、創業以来のミッションに位置付けてきた自然災害の軽減に向けてビジネス領域を拡大。保有するデータと専門知見にデジタル技術を組み合わせ、災害リスクを可視化して防災・BCPのあらゆる領域・フェーズをサポートします。天野洋文社長に今後の事業戦略を聞きました。
2025/10/20
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/14
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方