Q、何から始めればよいか? 
主だった活火山は、基礎的自治体などによってハザードマップが作られているので、それを確認してみることだ。ただし、問題は富士山や浅間山の場合など、局所的な被害では収まらずに、降灰などがかなり広範囲に及ぶ場合だ。関東ローム層というのは、富士山、浅間山(長野県群馬県)、榛名山(群馬県)赤城山、(同)などの火山灰でできているわけだから、関東平野は基本的には火山灰が降り積もる地域といえる。 

降灰が広範囲に及ぶ場合は、かなり大変な状況になることが考えられる。政府では、首都直下地震などに備え、首都中枢機能のバックアップ拠点を大阪や札幌、仙台、名古屋、福岡などの政令市に置くことを検討しているが、地震に限らず、富士山の噴火でも、降灰がひどい状況ならば、首都機能が損なわれ、オペレーションがまったくできなくなり、こうしたバックアップが必要になる可能性はある。交通機関は麻痺し、灰を吸い込んでコンピューター機器はダメになり、通信が機能しない、停電が起きるなど、事業活動においては非常に困難を極める状況になることも考えられる。その影響が続いている間は、関東地方では仕事ができないと想定しておいた方がいい。 そうなると、基本的には、代替戦略を考えるしかない。しかも、関東圏の外に、本社機能なり、製造生産サービス拠点を持っていくことがポイントになる。

Q、実際に降灰があったとしても、それほど壊滅的な被害にならないことも考えられる。
基本的には、何が起きるかは分からない。噴火の予知ができたとしても、規模や影響までその時点で予測することはできない。だとしたら、噴火が来ると分かった時点で、念のために関西なり別拠点に移してしまうというのが正解だ。仮に1㎝程度の灰でも、おそらく始末に負えない。水をかけて流せば下水がつまるし、コンクリートだらけの都市部では灰の除去だけでも大変な作業になる。 

予兆の時間は、どのくらいあるかは分からない。1カ月程度ある場合もあるし、有珠山は2日ぐらいで噴火した。それぞれの火山ごとに特徴があるので、事前にいつでも代替体制に移行できるくらいの準備をしておいて、予兆をつかんだ時点で、最悪のケースを想定した行動をしないと手遅れになる。首都直下地震でも、今想定されている規模の被害が起きれば、交通機関の麻痺、電力のひっ迫、燃料不足などにより首都圏はほとんど機能しなくなることが想定される。火山なら長期に噴火活動が続く場合はさらに深刻で、食料や水も供給されなくなることは十分考えられる。

Q、中堅、中小企業にとってはかなり過酷な状況と言える。 
それは仕方がないことだ。中堅や中小企業で、大企業のサプライチェーンにつながっている企業なら、大企業のBCPにくっついて、一緒に移ってしまうという戦略もある。あるいは、関東圏外の同業者に生産委託をしたり、一部工場などを借りる、いわゆる“お互い様BCP”を考えるのも手かもしかない。いずれにしても、発災地の外に出て、代替戦略を取ることに変わりはない。

Q、降灰の直接の被害を受けないとしても、火山近くにデータセンターがあったり、あるいは海外から空輸で物を調達している企業が、噴火によって事業活動が困難になるケースも考えられる。 
BCPでは、組織にとって中核となる事業を決め、それに関わる重要業務や経営資源を洗い出す「事業影響度分析」(BIA)の時点で、1つ1つの経営資源をすべて網羅的に洗い出し、その1つ1つについて、その資源がダメになった場合に代替可能か、あるいは早期復旧を図った場合に目標復旧時間を満たせるかどうかをしっかりと分析することが求められる。 

これがしっかりできていれば、どの経営資源が被災したとしても対策はとれる。サプライヤーや物流が被災しても代替が可能な体制を整えておかなくてはならない。ところが、首都直下地震しか想定していなくて、東京で作られている部品だけの代替調達を考えていたら、まったく別の場所で起きた災害により調達が止まり、製品の製造ができなくなってしまう。 

これまで日本は多くの企業がBCPの理解を容易にするため地震による被害を想定する「リスクアセスメント」から検討に入った。しかし問題は、その被害想定の範囲に含まれる経営資源にのみ対策を講じたことにより、対策に抜けもれが生じてしまったことにある。これが東日本大震災で大失敗した1つの原因だ。つまり、ある失敗した企業では、宮城沖地震という脅威を前提としたことで、それほど震度が大きくならないと考え、生産拠点そのものが強い揺れや津波で被災するという想定はされていなかった。

「想定地震」を置く方法でBCPの検討を進めた場合は、継続的改善により他の規模や発生地における地震、別のリスクなどに想定を拡大し戦略や対応を見直していくことを推奨しているが、まだ、多くの企業が、このステップをやれていないように思う。本格的に抜け漏れを防ぐために今、日本企業がやるべきことは、BIAを徹底的にやり直すことだ。

BIAができ重要業務を支える経営資源のすべてで代替策や早期復旧策がなされた段階で、はじめてリスクアセスメントを行うことが有効になる。仮に、BIAの時点で、それぞれの部品の代替調達まで考えていたとしても、富士山の噴火という具体的なリスクをあてはめてみることで、その調達手段が本当に実現可能かを検証できるようになる。例えば、長野にある会社が、南関東で生産されている部品を北関東から代替調達する計画を作っていたとした場合、富士山の噴火をあてはめてみると、南関東からも北関東からも調達できない可能性があることに気づく。