写真を拡大  2011年に土石流災害で崩壊したリオ山岳地域の集落(写真提供:山敷教授)

五輪開催を直前に控えたリオ・デ・ジャネイロが非常に深刻な事態に陥っている。ブラジルの自然災害予防の中枢として整備された自然災害観測警戒センターリオ・デ・ジャネイロ州支部CEMADEN-RJ(Centro Estadual de Monitoramento e Alerta de Desastres Naturais-Rio de Janeiro)が先月、経済危機のために閉鎖されることになったのだ。さらに、ロイター通信によると、リオ・デ・ジャネイロ州は6月、財政が危機的状態にあるとして非常事態を宣言し、8月の五輪期間中に公共サービスを提供できるよう連邦政府に資金支援を要請した。これを受け、ブラジル政府は緊急予算として29億レアル(約890億円)を支出することを決定。この緊急予算措置無しにリオでの警察機構がオリンピック開催のためにうまく機能しないことは、ほぼ間違いないとされている。ブラジルは五輪開催に最大限の努力をしているが、取り巻く状況は困難極まりない。五輪開催においては、開催地の決定時時の社会経済状況と、開催時の状況が極端に異なる例が考えられるが、リオ五輪はその最たる例と言える。
2020年に東京五輪の開催を控えた日本が学ぶことは何か。

京都大学の山敷教授が2020五輪に緊急提言

水資源工学に詳しい京都大学大学院総合生存学館の山敷庸亮教授によると、ブラジルでは近年、極端豪雨による土砂崩れや洪水などの自然災害が多発しており、2011年1月には、リオ・デ・ジャネイロ州山岳部を中心に大規模な土砂災害が発生し、死者900人以上、行方不明者を加えると1000人以上の犠牲者を出したとされる大災害が発生している。

山敷教授によると、リオの山岳地帯は、2014年に大規模な土砂災害が起きた広島と似た「まさ土」(風化花崗岩)と呼ばれる地質が多く、洪水・土砂災害は、リオの最も大きな自然災害リスクだという。

ブラジル政府では、2011年の災害を受け、それまでの応急対応と復旧重視の防災政策から、災害予防を重点とした防災政策に転換。数千億円とみられる多額の投資のもと設置されたのがCEMADEN-RJだった。最先端の二重偏波レーダー雨量計ネットワークや地理情報システムを用いて自然災害を監視・モニタリングができる最新施設で、洪水、地滑り、極端豪雨、森林火災など、災害などの可能性が高まると、リオ・デ・ジャネイロ州の92市町村に警告を発行し被害を軽減することが期待されている。ハード面だけでなく、CEMADEN-RJには、気象学者や地盤、地理情報システムの専門家、消防士などが24時間体制で常勤し、事前監視から災害対応までを調整するコントロールセンターとしての機能も持つ。

CEMADEN-RJの閉鎖は、職員彼への給与が支払えなくなったことが理由とされる。現地の報道によれば、その額は、月額3万8750レアル。日本円に換算してわずか127万円。リオ在住の日本人によれば、CEMADENだけでなく、財政難で警官らの給料や医療機関従事者への未払いも続いており、五輪直前にストライキを起こしたりする可能性も指摘されているという。

絶対成功を義務付けられるオリンピックを実際に開催するための負担は計り知れない。本来、リオ五輪前までに世界最先端の防災システムを整備して、リオ・デ・ジャネイロを災害から守る構想は、経済破綻によりほぼ白紙となってしまった。