2016/07/25
誌面情報 vol56
もう1つ、備蓄倉庫のほかに同社が平時から備えていたため役に立ったものがある。それが国家公安委員会への事前の「緊急車両登録」だ。東日本大震災の教訓から、災害時にタンクローリーを縦横無尽に活用するためには緊急車両登録が必須だと考えていた同社は、平時から同社のタンクローリーに対して緊急車両登録を行っていた。おそらく、熊本で発災してから車両登録を開始していたら、さらに時間をロスしていることになっただろう。
「私たちの経営理念は、『ありがとうの言葉を世界一集める企業』になること。九州電力の担当者からも『今後ともシューワの機動力に期待しています』との言葉もいただいた。これからも被災地には、シューワグループ全社体制で応援して
いきたい」(矢野氏)。
東日本大震災の教訓から、BCP事業部を発足
中井氏は「東日本大震災での活動を経験するうち、理不尽だと思うことも多かった。燃料の出荷制限も、なぜあそこまでしなければいけなかったのか。これからも災害は必ずやってくる。自治体も企業も、燃料備蓄に本気で取り組む時代だと考え、BCP事業部を作った」とする。
同社は東日本大震災の翌年、2012年から本格的にBCP事業の展開を開始した。まず、北海道から沖縄までを11ブロックに分け、専属の燃料貯蔵タンクを整備。日本中どこでも、高速道路を使わずに約5時間で届けられる体制を整えた。その量は自社部分で合計2800キロリットル、協力業者で7万4000キロリットル、合わせて実に7万6800キロリットルに及ぶ。
専属の燃料を貯蔵するほか、専属の配送サービスも整備した。現在は24時間365日体制で、グループ全体で約440台のタンクローリーを保有する。車両は契約する会社ごとに車両が1台1台ナンバーでひもづけされ、平時から緊急車両として国家公安委員会に届けられている。月額契約が基本だが、『出動して75時間以内に届かなければ、1年分返金する』といったユニークなサービスも付随する。現在、大手通信会社やインフラ会社をはじめとし、メディアや金融機関、物流会社など、およそ40社の契約を結ぶまでに至った。
「通常の燃料会社は、山の中の工事現場など、いわゆる「パトロール給油」をしているところが多い。しかし、それでは災害が発生した場合には稼働率が4倍にも5倍にも膨れ上がるので、キャパオーバーになってしまう会社も多いのではないか。当社は、普段は灯油巡回給油をやっている車両を、災害時には「専属車両」として通常業務を全てストップして被災地に回すようにしている。日ごろ灯油の販売に使っている車両を利用するので、毎月の契約代金も抑えられている」と、矢野氏は自信を見せる。
首都直下地震、南海トラフ地震に備える
シンガポール系の物流施設大手のグローバル・ロジスティックス・プロパティーズ(GLP、本社:東京都港区)は今年6月、茨城県で国内最大級のマルチテナント型物流施設「GLP五霞(ごか)」を開発すると発表した。総開発費用は230億円で、2018年10月に着工予定のこの施設の最大の特徴は、災害時のBCP対策の一環として燃料を備蓄していることだ。災害時に入居企業が事業を継続できるよう、トラックなどに燃料を供給する。軽油を中心に、4トントラック300台が満タンにできるだけの燃料を備えているという。施設内の装置などを稼働するための自家発電装置の燃料としても視野に入れている。
この燃料備蓄基地の運営を委託されたのがシューワだ。首都直下地震が発生した場合、首都圏を半円状に囲む圏央道沿いは災害対策の拠点として期待され、特に茨城県のつくば中央インターチェンジ(IC)から五霞ICまではその前線基地としての役割を負うと指摘する専門家もいる。さらに同社は同じく圏央道沿いの平塚IC近辺にも750キロリットルを貯蔵する燃料備蓄基地を整備し、大型タンクローリー1台、タンクローリー15台を配備した。矢野氏は「ほかにも東京都八王子市、埼玉県桶川市、千葉県白井市、安食市などでも協力会社と提携し、首都直下地震や南海トラフ地震が発生した場合における燃料問題に取り組んでいる。ここまでやっているのは当社がオンリーワンなのではないか」と話す。
来るべき首都直下地震や南海トラフ地震に向け、シューワは黙々と、しかし着実にその準備を進めているのだ。
誌面情報 vol56の他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/17
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方