2012/07/25
誌面情報 vol32
オリンピック対策は 2000 年問題に似ている
期間中は夏休みをとらせる
投資銀行の BLME (Bank of London and the Middle East) 情報セキュ リティ責任者の William Purdy 氏は、オリンピック対策の現状について、 コンピューターの 2000 年問題と似ていると表現する。同社の懸念するリ スクと、対策について聞いた。
Purdy 氏は、 「2000 年問題の時は、 たくさん準備をしてみたが何も起こら なかった。今回も、本当に何が起こる かはわからないが、準備はしなくては いけない」と語る。
ただし、問題としては人的な面と、 交通に集約されるとする。 「ロンドンの ような小さな町に、世界中から人が集 まってくるのに、交通は地下鉄を見て わかるように脆弱すぎる」 (同) 。
同社では、交通手段が使えず従業員 が仮に出社できなくても在宅から仕事 ができるように専用のセキュア VPN に よるリモート環境を整えている。回線 速度が遅くなる可能性もあるので、重 いファイルは事前に自宅の PC などに メールしておくよう指示をしていると いう。これはオリンピック対策に限っ たことではなく、日常から行っている ことだとする。
業務用の通信環境は、金融向けに設 けられている特別なもので、一般と違っ て、オリンピックだからといって回線 が混み合う可能性はほぼないようだ。 それでも、万が一に備え、DR サイトは いつでも立ち上げられるようにしているし、支店に移動して、業務を継続さ せる方法など、いくつか BCP を備えている。
社内ネットワーク環境への対策としては、回線への負荷を考慮して、PC で ビデオストリームを見ないように指導 をしている。ただし、実際には回線の 負荷は常に監視できているので、誰かが PC でテレビを見ているからといって、それにより回線が落ちることはな いそうだ。
Purdy 氏によれば、交通の遅延や停 電、通信のトラブルはロンドンでは決 して珍しいことではない。こうした問 題には、すでに十分な対策を講じてき たとする。あとは「オリンピックにお けるリスクを詳細に検討し、それに対 して不足しているものがないかを網羅 的にチェックして、従業員の理解をしっ かりと得るだけ」 (同) 。 例えば、オフィスの文房具やコピー 用紙が手に入らない、あるいは昼食が 買えないという問題。同社では、オリ ンピック期間に備え、地下の在庫スペー スに事務用品などの買い置きをしてい る。 一方、同社特有の問題もある。BLME はイスラム系金融機関で、従業員には 中東の人が多い。オリンピックとラマダーンの時期が重なるため、同社では、社員に対してオリンピック期間中はな るべく夏休みを取るように推奨してい る。 「もともとビジネスがスローダウン する時期で、人手不足は心配していない」という。
同社は、個人を対象にした小売銀行 (リテイルバンク)ではなく、投資銀 行(インベストメントバンク) 。万が一、 事業が止まっても多くの市民に直接影 響を与えるようなことはない。ただし、 顧客からの信頼と、社会的な信用を落 とさないため、顧客への期日内の支払 いと、入金を止めないことを最重要業 務として定め、BCP を常に改善してい るとする。
Purdy 氏は「オリンピックへの対策 は、あくまで通常の BCP の延長でしか ない。今までの計画に、オリンピック がもたらす具体的なリスク・シナリオ をあてはめるだけ」と話している。
誌面情報 vol32の他の記事
おすすめ記事
-
「自分の安全は自分で」企業に寄り添いサポート
海外赴任者・出張者のインシデントに一企業が単独で対応するのは簡単ではありません。昨今、世界中のネットワークを使って一連の対応を援助するアシスタンスサービスのニーズが急上昇しています。ヨーロッパ・アシスタンス・ジャパンの森紀俊社長に、最近のニーズ変化と今後の展開を聞きました。
2025/08/16
-
-
白山のBCPが企業成長を導く
2024年1月1日に発生した能登半島地震で震度7を観測した石川県志賀町にある株式会社白山の石川工場は、深刻な被害を受けながらも、3カ月で完全復旧を実現した。迅速な対応を支えたのは、人を中心に据える「ヒト・セントリック経営」と、現場に委ねられた判断力、そして、地元建設会社との信頼関係の積み重ねだった。同社は現在、埼玉に新たな工場を建設するなどBCPと経営効率化のさらなる一体化に取り組みはじめている。
2025/08/11
-
三協立山が挑む 競争力を固守するためのBCP
2024年元日に発生した能登半島地震で被災した三協立山株式会社。同社は富山県内に多数の生産拠点を集中させる一方、販売網は全国に広がっており、製品の供給遅れは取引先との信頼関係に影響しかねない構造にあった。震災の経験を通じて、同社では、復旧のスピードと、技術者の必要性を認識。現在、被災時の目標復旧時間の目安を1カ月と設定するとともに、取引先が被災しても、即座に必要な技術者を派遣できる体制づくりを進めている。
2025/08/11
-
アイシン軽金属が能登半島地震で得た教訓と、グループ全体への実装プロセス
2024年1月1日に発生した能登半島地震で、震度5強の揺れに見舞われた自動車用アルミ部品メーカー・アイシン軽金属(富山県射水市)。同社は、大手自動車部品メーカーである「アイシングループ」の一員として、これまでグループ全体で培ってきた震災経験と教訓を災害対策に生かし、防災・事業継続の両面で体制強化を進めてきた。能登半島地震の被災を経て、現在、同社はどのような新たな取り組みを展開しているのか――。
2025/08/11
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/05
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/08/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方