一般の企業や市民が、こうした防護服を日常的に備えることは現実的ではないが、CBRNEテロまでを想定しなくても、新型インフルエンザの流行などで、感染疑いのある人が嘔吐した際などに、清掃などに当たれるよう、最低限の防護服などは用意しておいた方がいい。

初動のあり方

化学テロ災害、または生物テロ災害の発生が疑われるケースは次のような場合だ。

こうした際には直ちに消防機関などに通報するとともに、以下のような行動が求められる。

重要な除染

仮に危険地域にいて、被曝した可能性があれば、早期に除染することが重要だ。消防機関などから細かな指示はあるだろうが、大量の水、できればアルカリ石鹸を用いて洗い流すことが有効だとされている。除染に要する時間は、少し低めの温水で4~5分が目安だ(温かすぎると毛穴が開いて危険物質を吸収しやすくなる危険がある)。

最も効果が高い除染は脱衣で、水で除染する際もまず脱衣が重要になる。その際、自力で脱げる場合は、息を止めて脱ぐこと、衣類の曝露側表面に皮膚を触れさせないこと、脱衣した衣服等はビニール袋などに入れて密封することなどの配慮が必要だ。脱ぐ前に手を洗浄し、使い捨てのゴム手袋を装着させると感染拡大
防止になる。脱ぎにくいものはハサミなどで切断するといい。

災害医療の資機材を専門に扱う株式会社ノルメカエイシアの千田良社長によると、海外では、個人用の乾式除染キットが販売されている。キットの中には立ったまま脱衣ができるようポンチョ、スリッパ,貴重品袋、脱衣密閉袋、除染用ウェットティッシュ・ペーパータオル、ハサミ、ボールペン等が入っていて、脱衣した衣類は密閉袋に入れ、名前、被曝した場所、時間などを書いて、その場に置いておくのだという。

現場を安全にする

消防が現地に到着したら、消防警戒区域や侵入統制ラインが設定され、簡易検知活動によってホットゾーン、ウォームゾーン、コールドゾーンが設定される。

このために、隊員は検知・識別のための幅広い機材を持ち、サンプル(固体や液体、気体のこともあるだろう)を同定していくが、市民レベルに求められることは落ち着いて迅速に行動することである。

役立つ情報システム

テロでなくても、危険な化学薬品などを扱っている民間企業で事故が起きた場合も、CBRNと同様な対応が求められる。直ちに、その情報を周囲や消防など関係者に伝える必要があるが、過去に起きた化学工場の事故などを見ると、化学物質の同定に時間がかかったり、その化学物質に適した消火活動が行われていないケースも見受けられる。

2014年5月に東京都町田市の金属加工会社「シバタテクラム」の工場で火災が発生した際、東京消防庁の消防隊が工場内のマグネシウムを認識できないまま放水し、爆発的に炎上した。同社が消防当局の指導を無視してマグネシウムの取り扱いを届け出ていなかったことが原因とされるが、仮に届け出を行っていたら放水前に出火物質を同定し、適切な消火活動ができていたかは検証を要する。2012年9月に起きた日本触媒姫路消防署の火災では消防士1人が命を落としたが、元在日米陸軍消防本部次長で株式会社日本防災デザインCEOの熊丸由布治氏によれば、もし、爆発したアクリル酸の特性を理解した上で、消火活動を行っていたら、①緊急対応要員以外の従業員は即座に半径800メートル以上離れた場所に避難させる、②近隣の住民も同様に避難させる、③自衛消防隊は無人放水の消火態勢を整え実施する、などの対応により犠牲は防げたのではないかと弊誌のインタビューの中で語っている。