2016/10/14
誌面情報 vol57
当然ながら民間企業は、自社で扱う危険物質が流出・爆発した際の、周辺への影響、人体への影響などを事前に把握し、その情報を関係者間で共有しておくことが求められる。
わが国では、化学物質管理促進法によりPRTR(Pollutant Release and Transfer Register)制度が導入されている。これは特定の化学物質の排出量や移動量を事業者が把握して国に届けるというもの。1年に1回、事業所や工場ごとに統計を取って県を通じて国に届け出ることが義務付けられている。この結果はすべて公表されているが、地域住民にはその内容はあまり共有されていない。また、同制度で届け出られた化学物質は、環境面や健康面への影響は詳しく
記述されているが、引火や爆発した際の危険性については説明が乏しい。
一方、米国では、緊急時応急措置指針(Emergency Response Guidebook、ERG)や「WISER」と呼ばれるシステムがある。WISERとは、米国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)の一部門である国立医学図書館(National Library of Medicine)が開発した、スマートフォンでも利用できるアプリケーションの名称だ。危険物事故における危機対応を支援するために設計されたもので、危険物質の識別のサポート、危険範囲、物理的特性、人間の健康情報、封じ込めおよび抑制アドバイスなどを提供しており、CBRNE災害の現場でも既に活用されている。
こうしたシステムも併用することで、もし爆発事故や流出事故などが起きた場合に、どういった危険物質がどの範囲に及ぶのかを、事前に確認することができる。日本でも、2013年から総務省消防庁が「消防・救助技術の高度化等検討会」を設置し、ERG日本語版の発行が整いつつある。
市民の備え
外務省領事局邦人テロ対策室が発行している「海外へ進出する日本人・企業のためのCBRN(化学、生物、放射性物質、核兵器)テロ対策Q&A」を参考に、総論的な対策と対応をまとめてみた。
(1)緊急用品の準備をする
CBRNテロの被害に遭った場合は、攻撃された場所から速やかに避難することが有効だ。その一方で、医師の手当てを受けるまでに必要な応急処置をしておかなければならない。また、直接の被害に遭わなくても、テロの規模が大きい場合には、自分の住居で危険が去るまで待機したり、より安全な場所に避難せざるを得ない場合もある。
そのような事態に備え、大規模な自然災害の場合と同様に、飲料水や食料品、あるいは防護服、呼吸用保護具、除染材(乾式のものもある)、仮に衣服が汚染した場合の脱衣袋、など緊急用品を入れた「非常袋」を用意しておくことが大切だ。
誌面情報 vol57の他の記事
- 特集2 石綿を無害化固めて封じ込める
- 災害時に解体現場で露呈軽視される3建材
- 特集3 徹底解説 CBRN 身近にある危険
- 危機管理の盲点となるメンタルヘルス1億円以上の賠償請求も
- 熊本地震と被災地のリーガル・ニーズ
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方