2016/10/04
事例から学ぶ

トリアージとは、災害などで多数の負傷者が出た場合に、医師や看護師などが患者に対して医療の優先順位を決める手法。限られた状況の中で1人でも多くの人命を救うために開発されたものだ。患者の症状によって優先順位が色分けされ、赤(最優先治療群)→黄(待機的治療群)→緑(保留群)→黒(死亡群)の順番で治療にあたる。災害時医療には必須とされている考え方だ。
一方で、2013年に発表された内閣府の南海トラフ地震新想定では、静岡県内で10万人を超える重軽傷者が出るとされており、それに対して、21カ所ある県内の災害拠点病院のベッド数は1万7730床。全病院合わせても4万弱床にしか過ぎない。圧倒的に足りない医師とベッドを有効活用するため、県内の医師が中心となって作ったNPO法人「災害・医療・町づくり」は、2006年ごろから市民が自らトリアージを行う訓練を展開している。
今回の講演を行った大村医院院長の大村純医師も同法人の1人。「災害時には、当面は治療を行わなくても、応急処置を行えば生命には問題ないと判断できるケガは全て軽傷として緑色タッグと判定し、自主防災組織などで対応してもらうことになる。このように企業が主体となって従業員にトリアージを教えるのはとても意義のあること」と話す。
同社は大村氏の所属しているNPO法人の活動を知り、南海トラフ地震で大きな被害が予想される静岡で、自分たちの手で一人でも被害者を少なくする知識が必要と考え、グループ会社も含めて2年前にトリアージに関する社内セミナーを実施した。
身近なものを使った応急処置を学ぶ
トリアージの訓練は今回で2回目。そのため、より具体的な応急手当の方法が大村医師から示された。
座学では、まず創傷(切り傷、裂け傷、擦り傷)の手当の方法。人間の血液は体重の1/12。そのうち1/3を失うと命にかかわる恐れがあるため、出血が激しい場合は止血の実施が必要になる。今回は止血操作として直接圧迫止血法を習った。これは、出血部にタオルを当て、強く圧迫することで止血を試みる手法。出血している動脈や静脈が細ければ、圧迫だけで大抵は止血できるという。ただし、この方法で止血できないのであれば損傷している動脈や静脈が太く、多量に出血することが見込められるため、黄色タッグ以上として病院に運ばなければならない。また、病院に搬送する際も出血多量で状態が悪化しないように、止血操作を続けながら出血を少しでも減らすようにして搬送しなければいけない。
具体的な方法としては、まず出血している箇所をきれいなタオルなどで「面」として押さえる。この時に、血液はウィルスなどに汚染された感染源となる場合もあるため、血液に直接触れないように買い物用のビニール袋やラップを手袋代わりにすることが重要だ。
よく映画などで、止血するためにひもやゴムで傷口から心臓に近い側を縛る場面が出てくるが、これは医療従事者にとっても難しい手法であり、まして動脈の位置を正確に知らない市民にとっては不可能ともいえる。
大村医師は「外科医でもまず直接圧迫を試みるのが普通で、ほとんどの出血は直接圧迫で止血できる」としている。
ガーゼも消毒液も使わない、
市民にもできる湿潤療法(ラップ療法)
災害現場では、市民の身の回りには消毒液もガーゼもない。「湿潤療法」とは、消毒もガーゼも使用しない治療方法で、水とラップがあれば可能な治療法だ。湿潤療法の手順は以下。
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