もうひとつの再発防止策

ところで、今回の再発防止策には、「ANA全就航空港」と「全委託先警備会社」への項目しかありません。セキュリティ関係者は乗せる側だけではなく、乗る側の搭乗旅客も含まれます。そこで「旅客への啓蒙、セキュリティ意識の植え付け」という項目も再発防止策に必要となってきます。自身が飛行機内でテロをしようと考えてナイフを持ってくる訳ではなくても、悪意を持った人間にそのナイフが渡ってしまえば、それでハイジャックされてしまう危険もあります。今回の伊丹空港の旅客は、「自分はこのナイフで悪さをしようとは思っていないから持って行って大丈夫」と自身のことしか考えていなかったのではないでしょうか。万一そのナイフが奪われれば、自身を含む機内全員の命が危険にさらされることになるなんて、露ほどにも思っていなかったはずです。

お客様に負荷をかけたくないからということではセキュリティの徹底はできません。「誰のためにセキュリティ対策をやっているのか」ということを旅客自身に自覚してもらい、検査に協力させていく、これは航空セキュリティを向上させるために必要不可欠な項目です。ただし、これを徹底することは民間企業の航空会社だけでは難しいということも理解しています。

ということで、ここからはひとり言ですが…。

この事案が起きたときには、ラグビーワールドカップの開催に伴いセキュリティ対策の強化が日本中の空港でスタートしていました。国を挙げてセキュリティを強化しなければならない状況では、国が保安検査に対してよりリーダーシップを発揮すべきです。今回の事案ではANAが再発防止策を打ち出し、その徹底を約束しました。保安検査の責任組織は航空会社となっていますから当たり前のことです。

しかし、お客様に対して強く言えない強く出れない民間企業が保安検査の責任主体のまま、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを迎えても良いのでしょうか? 国の威信をかけた大規模イベントがやってきます(ラグビーワールドカップはすでにやってきてしまっていますが)。国の責任においてセキュリティを徹底し、何かあれば国が全力で対応するという方向に航空分野も向かってほしいものです。万が一の時、民間組織がとれる対応は限られてしまいますが、なぜか、日本はずっと航空会社が航空保安の責任組織なのです。不思議ですよね。

(了)