「Firefighter Physical Performance Test 2014」(出典:YouTube)

こんにちは。サニーカミヤです。

今日は消防活動中にみなさんの個人消防力を最大限に発揮し、逃げ遅れた要救助者を助けるための個人装備&資機材習熟訓練の手法について、アメリカの事情をご紹介いたします。

まずは、次のビデオをご覧ください。


「Fire Fighter Fitness Test」(出典:YouTube)
このビデオは消防士個人の身体能力をチェックするテストの手法で、下記の条件ですべての対象者が平等な内容で効果測定が行われます。

効果測定対象者の統一条件
・フル個人装備
・最大に充填した空気呼吸器
・テストに用いられる重りやはしご、ホースなどすべては同じ設定
・コースマップに用意された資機材や使用要領も同じ
・階級や年齢によるハンディーなどはなし(理由:現場にハンディーはないから)

効果測定は競技ではないことが前提で、今の自分の現場活動能力を自覚すると同時に小隊長は各隊員のレベルを把握することを目的としています。隊員自らが自分の弱点をしることで日頃の訓練目標メニューを作るベースにもなります。

安全管理の視点からは、空気呼吸器着装時の現場作業内容に応じた呼吸調整を行うことで、濃煙内での作業時間の目安や、小隊を火災現場内に引き連れた小隊長の退出のタイミングを把握することにも役立ちます。

小隊長は自分の隊員の得意・不得意を把握し、現場内で的確に担当を割り当てなければいけません。空気呼吸器使用時は、最も空気消費量が早い隊員が退出判断の基準になります。

空気呼吸器のエアーを最大限持たせる方法
1、吸うときは大きく時間を掛けて吸う
2、吐くときは細々と、時間を掛けて吐く
3、なるべく体力を使わないように意識して行動する
4、体の筋肉は状況に応じて使い分ける
※呼吸はゆっくり吸った時の倍以上の時間を掛けて、息を吐き切ることがエアーを長く持たせることだと思います。

この効果測定内容や地域環境は消防局によっても違いますが、消防職員の安全管理を行う上で、また組織が最低限の内容を把握するため、多くの消防局では半年に1度程度行われているようです。

日本でも資機材の習熟マニュアルと安全管理の指針のようなテキストはいくつも存在しますが、消防士個人が実際に現場で使用する資機材を用いて「どの程度の現場対応能力があるのか」を把握する効果測定は、各消防局で行われていないような気がいたします。

■第2章 救助基本訓練 第 1節 呼吸保護用器具取扱訓練 1 空気呼吸器
http://www.fdma.go.jp/concern/law/tuchi2403/pdf/240409_sho69_sai123_6.pdf
(総務省消防庁HPより)

■救助隊用給気式呼吸用保護具 空気呼吸器
 http://www.fesc.or.jp/cfasdm/images/cfasdm002.pdf
(一般財団法人日本消防設備安全センター「消防・危機管理用具研究協議会」HPより)

日本は年々、内装材の防炎加工の技術も上がり、消防設備も充実して防火等に関連する社会システムの安全化が進んだことから、特に炎上火災への災害出動件数が減少しており、消防士の火災現場経験不足が問題であることがよく話題になります。

実は、アメリカをはじめとする世界の先進国すべての火災件数が減少しており、日本と同じように消防士の火災現場経験不足が問題になっています。その入り口対策として、まずは最低限の個人装備の習熟度の向上を目的とした、様々な取り組みが行われています。

下記のビデオでは、個人装備の重量設定や資機材の取り扱い方や救助の方法などまで条件設定して効果測定が実施されています。

「Firefighter Physical Performance Test 2014」(出典:YouTube)

消防士達は定期的に行われるこれらのテストに受かるために日ごろからトレーニングを行い、資機材を最大限に活用するための体力と同時に習熟訓練を行っており、効果測定後はすべての使用した資機材のメンテナンスも行っているようです。

また、消防士ごとに個人台帳があり、定期的にさまざまな訓練の種類やタイムを記録したり、インストラクターが結果を総合評価したりして弱点を改善するなど、みんなで励まし合って小隊の消防力を向上させています。

■消防隊員個人能力台帳に用いられる最低年間訓練基準リスト
http://osfm.fire.ca.gov/training/pdf/Fire%20Fighter%20I%20Training%20Record.pdf
(「office of the state fire marshal」HPより)

最低訓練基準リストのなかには、体力だけではなく消防士として最低限知っておくべきや身につけておくべきことのほか、すべての資機材の最低年間訓練時間、
各現場ごとの安全管理、火災防御テクニック、各種ロープ結索方法など幅広くチェックできるようになっています。

日本でも消防学校では訓練カリキュラムの細目があるようですが、アメリカのほとんどの消防局ではこの最低年間訓練基準リストの内容を毎年、小隊長が責任を持って訓練を行い、評価チェックし、本部に報告しています。

実施する側も受ける方にとっても、「なぜこの訓練を受ける必要があるのか」がとても明確で、これこそが「見える化による継続教育」だと思います。ゴールが見えると隊員自身も目標を具体的に設定できるので、やる気を継続できますよね。

体力に自信がある若い隊員は、下記のような競技に参加してさらに上を目指す努力を日々行っています。自ら挑戦し続ける姿は本当に頼もしいと思います。


「FIREFIGHTER COMBAT CHALLENGE SILVERWOOD」(出典:YouTube)

いかがでしたか?

日本の救助技術大会のビデオは世界中で見られており、150万回も再生され、6000人以上の視聴者から高評価を得ています。


「Japan Tech Rope Rescue Competition」(出典:YouTube)

ただ、このビデオの視聴者のなかには「この競技技術をどんな現場で活かしているのだろう」という疑問や「自分を守る個人装備が足りないのでは」などのコメントも寄せられていて、大変興味深いです。

世界には国柄や地域の特性に応じてさまざまな消防装備があり、消防設備も異なります。海外事例のなかから日本の事情に合うものを取り入れ、日本方式の安全管理の指揮フォーメーションでスムーズかつ確実な小隊アクションを構築することで、これからも多くの人命を救っていただけたらと思います。


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
http://irescue.jp

(了)