2019/12/03
企業をむしばむリスクとその対策
□解説:リスクファイナンスを考える
リスクマネジメントの視点でこの事例で着目する必要があるのは、仕入れ価格の「変動」です。この変動の幅のことを、金融業界では「ボラティリティ(Volatility)」と呼び、一般的にはこの変動幅が大きくなるほど、リスクも高くなると言われています。
企業のリスク管理としては、この変動幅を可能な限り狭くする方法を考えなければなりません。しかし、1つの企業が市場価格をコントロールして自社に有利な価格帯に導くことなどできませんので、変動することを前提に、自社が設定する変動の許容範囲を超えて損失が発生する際に、その損失を財務的に補てんするリスクファイナンスを考える必要があります。
このような企業のニーズに対応するため、「先渡し取引」「先物取引」「オプション取引」などのデリバティブ取引が開発されました。
〇「先渡し取引」
農作物や債券、株式、通貨、金利、またはこれらの指数といった「原資産」を将来のある決められた日に取引するという当事者同時の取り決めのこと。しかし、先渡し取引は当事者個々人の事情に合わせた個別の契約のため、契約の不履行(=デフォルト)が頻繁に起きうるという問題点がある。そのため、先渡し取引の成立した際に証拠金(good-faith deposit)と呼ばれるお金を当事者に積ませることで、約束を簡単に破ることを防ぐ仕組みが作られている。
〇「先物取引」
先渡し契約の発展形。先渡し契約で証拠金を積んでも、実際に取引を履行することによる損害の方が証拠金より大きければ取引相手がデフォルトすることも多かったため、取引所が取引単位を当事者間の事情に応じてバラバラのままにするのではなく、誰もが取引しやすい単位に標準化。さらに、取引の当事者がデフォルトした際、その不履行者に代わって取引所が契約を履行するというギャランティー(保証)を打ち出したため、カウンターパーティー・リスク(=取引の相手のリスク)を気にすることなく安心して取引できるようになり、市場参加者の増加と、取引の流動性の大幅な向上を実現した。
〇「オプション取引」
対象となる原資産を、あらかじめ決められた時点や一定期間内に、あらかじめ決められた価格(権利行使価格)で売買する「権利」を取引するもの。よって、オプション取引には「売る権利=プット・オプション」と「買う権利=コール・オプション」の2種類がある。先物取引は将来売買する「約束」なので約束の価格と売買時の市場価格の関係によって利益とも損失ともなりうるのに対して、オプション取引は、あくまでも売買できる「権利」を購入することなので、その権利行使による売買で得をするときだけ権利を行使し、損をしてしまう場合は権利を放棄すればよい。
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