2020/01/10
日本企業が失敗する新チャイナ・リスク
■生き馬の目を抜く社会
さらにもう一つ、中国人が日系企業の日本人駐在員の行動のなかで理解に苦しむことがあります。それは、すべてにおいて「遅い」ということです。
例を挙げましょう。
中国でもアパートを借りたい場合、不動産を頼ることになります。これは日本と同じですね。彼らは貸し手、借り手の両者からマージンをもらうことで生計を立てています。
ところが、契約に至るまでの様子は大変な違いがあります。それは、相談から決定までのスピードです。
一般的な習慣として、日本人はアパートを下見して回り良い物件があってもその場で直ぐに決定することはまれだと思われます。本気で気に入った場合には何らかの手付金を払って取り置きしてもらうのが通常でしょう。
ところが、中国ではそういうわけにはいかないのです。
次の日に、他の誰かがその物件を見て気に入り、すぐに契約したいということになった場合、ほぼ間違いなくその人が優先的に契約することになります。なぜなら、たとえ手付けを打ったとしても、手付けを打ったその人が契約をするとは限らないからです。
よって、目の前で「今すぐ契約します!」と言っている人がいれば、不動産の担当者はそちらを優先する方が得だという発想になります。つまり、手付金をもらっていても何の契約もしていなければ、その物件はまだ宙に浮いている状況に過ぎないので、確実に自分の利益になる方を優先するのは当然の権利と言えるのです。
このスピード感が、なかなか日本人には理解ができないようなのです。
現代の中国ビジネスにおいて、何らかの決定に一週間以上かかってしまった場合、それは停滞ではなく後退を意味します。日系企業が慎重を期すという面において優秀であるとするならば、中国企業は生き馬の目を抜くほどのスピードを持ってトップを走ることに長けていると見るべきでしょう。
このお互い優位点が、今はお互いの理解を妨げるところまで高まってしまっています。
では、どこにおいて妥協点を見いだすのか?これは、どちらに合わせることがより利益が大きいのか、リスクがより小さいのか、より短期的なのか、より長期的なのかなどのバランスをもって判断すべきなのは当然ですが、現状中国の経済規模、経済発展度合いを鑑みるとき、日本側が中国側に寄せていくこと以外に道はないと見るべきでしょう。
中国市場を捨てるという選択肢があるのならまだしも、大きな市場を見ながら指をくわえているだけでおこぼれを待っているのであれば、今こそ時代の転換期とみて早め早めに戦略を変更していく勇気を持つべきなのかもしれません。
(了)
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