2017/01/16
防災・危機管理ニュース

共助と公助を円滑に結びつける教育訓練
今回の消火活動では12月22日に1005人、23日に949人の消防団員、糸魚川市消防本部、新潟県内外からの応援部隊の常備消防士が活動した。23日には富山県消防航空隊も上空からの情報収集活動として参加した。
消防庁では災害対策室を設置、糸魚川市、新潟県にも災害対策本部が設置された。また、詳細な情報については筆者もよく把握していないが、22日の午後には県知事が自衛隊へ派遣要請を出している。
また、これも想像の域を出ないのだが、おそらく住民の中にも自ら消火活動に参加していた方がいたのではないだろうか。勿論、警察も道路規制や立入り規制等の業務に就いていたはずである。
何が言いたいかというと、これだけの数の多様な人間が、一つの目標を達成するために、現場、或は、災害対策本部に集まり活動する際に、チームとしての円滑な“連携”が取れていなければ効果的な災害対応は実践できないことは火を見るより明らかである。
今回の寄稿では、あえて詳細な消火戦術のテクニックや、そのための実践的訓練については言及しないが、多機関連携、或は、統合指揮体制という視点から問題提起をしてみたいと思う。災害列島日本では、3・11東日本大震災を経験し、平成25年に制定された国土強靭化基本法にも次のようにはっきりと記載されている。
(関係者相互の連携及び協力)
国、地方公共団体、事業者その他の関係者は、第2条の基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協力するように努めなければならない。
さて、それでは具体的にどのように連携すればよいのだろうか。その答えを導き出す一つのヒントとして2011年に第1版として発行された ISO規格22320が「社会セキュリティ−緊急事態管理−危機対応に関する要求事項」としてJIS規格化されているのはご存知だろうか? その一部を抜粋して紹介する。
1、適用範囲
この規格は,効果的な危機対応を実現するために守らなければならない必要最小限の要求事項について規定する。危機対応に関わる単一の組織における指揮・統制,活動情報並びに連携及び協力のあり方についての基本的な事項について規定する。さらに,指揮・統制に関する組織体制及び手続き,意思決定支援,活動履歴の保持,情報マネジメント並びに相互運用性についても対象としている。
この規格では,時宜を得た,適切で,正確な情報を作成するためのプロセス,作業システム,並びにデータの取得及び管理を規定する危機対応に用いられる活動情報についての要求事項も規定している。この規格は,組織内部の部署間及び組織外の他の組織との関係における,指揮・統制プロセス,並びに連携及び協力を支援し,組織間の連携及び協力に関する要求事項も規定している。
この規格は,国際レベル,国家レベル,地域レベル又は地元レベルで起きるインシデントに備える,又は対応に関与するあらゆる組織[民間,公共,政府又は非営利組織(NPO)]に適用でき,それらの組織には次のような活動に関与する組織が含まれる。
a)インシデントに対する予防及び回復に関与し,責任をもつ組織
b)危機対応における指導及び指示を提供する組織
c)指揮・統制に関する規制及び計画を作成する組織
d)危機対応において,複数の機関間又は組織間の連携,及び協力を構築する組織
e)危機対応に関わる情報通信システムを構築する組織
f)危機対応,情報通信,及びデータ相互運用性モデルの分野で研究を行う組織
g)危機対応における人的要因の分野で研究を行う組織
h)一般の人々とのコミュニケーション及び意思の疎通に責任を負う組織
日本工業規格JISQ22320の全文を読み解いていくと、お分かりになる読者の方も多くいると思うが、これはまさしく世界的な危機対応のディファクト・スタンダードになっている“インシデント・コマンド・システム(ICS)”の内容そのものとも解釈できる。
文字数の関係で、ここで“ICS”の解説を詳しく言及することは避けるが、“共助と公助の連携”を実現し、円滑な多機関連携を図るには“ICS”の理解と現場への浸透が“鍵”となると筆者は考えている。JISQ22320の中で定義されている“連携しなければならない組織”を考えると、おおよそ「自助・共助・公助」に関連する全てのステークホルダーは、これを無視することは出来ないのではないだろうか。
だとすると、その為の関係者への教育は必須であり、微力ではあるが弊社、日本防災デザインが運営している有楽町の「日本防災デザインアカデミー」では、それについての実践的な“ICS(インシデント・コマンド・システム)入門編”の研修を2017年の4月よりスタートする予定である。
特に、日本においては“自助・共助・公助”と云う“キーワード”が広く一般にまで、その重要性が根強く強調されていると感じてはいるものの、果たして、どこまで、この“キーワード”が現場レベルにまで浸透しているのかを、この機会に今一度、その真の意味と価値を深堀りし、今後、本当に必要な教育・訓練を実践していかなければならないと考えている。今後起こり得る”大火”からの被害を最小限にするためにも、今から出来ることをやることが我々の責任ではないだろうか。
糸魚川の教訓を、広く日本の危機対応能力を高める教育・訓練を見直す契機とするならば、被災された皆様や、現場第一線で活躍した消防団員、常備消防士の方々へ多少なりとも報いることが出来るのではないかと思っている。
株式会社日本防災デザイン
代表取締役社長
熊丸 由布治
(了)
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