2017/01/17
誌面情報 vol47
Oral History04 2日間納入しなかったら終わりです
オリバーソース株式会社 代表取締役社長(当時)道満雅彦氏
聴取日:1999年9月2日
損失額は10億3000万円
会社の売上金額が史上最高を記録したのが1994年の12月です。つまり、史上最高額を集金する予定だった3日前に、震災が起きたわけです。震災によって我々が被った損失額は銀行の計算でだいたい10億3000万円と言われています。その前年のソース売上げが21億にちょっと足りないぐらいでしたから、年商の半分以上が損失ということになります。おそらく神戸に現存している食品会社の中で、損害額は年商比でいうとトップだったと思います。
本社のあった兵庫区まで向かうと、うちの会社が燃えとったんです。ものすごい煙。コンピュータとサーバーが全焼しました。本社棟のバックアップのコンピュータは助かるかと思ったが、結局、火の粉が入って全焼しました。書類とか営業活動するためのデータベースがこの2棟にありました。
廃業まで考えた
借り入れはゼロですし自己資金で全部やっていました。借金の経験がなかったんです。借金ができるという頭がなかったので、(会社を)やめようとなりました。兵庫区内に1440坪の土地と建物の資産を持っていましたので、この土地を生かして、ここの場所にマンションを建てよう、これでは(会社は)無理やと。ソース業界でも調味料全般ですが、スーパーさんとお取引するのに発注があってから2日間納入しなかったら終わりです。1週間も滞るともう絶対出入り禁止です。だから「もうやめた言うとこ」という気分になっていたんです。
実は震災から1週間か10日ぐらいして大手食品業界の新聞が震災を取りあげて、私が結局、行方不明。それで『オリバーソース再起不能。施設は全焼』という記事が載りました。後日、大々的にそれは訂正記事を出してもらいましたけれど、それを読まれた食品業界の方は非常に多いと思います。オリバーソースを注文しても返事もこない。納入を待ってもこないということで(他社の)代替商品がかなり流れました。
我々がしっかりとしていたら大阪支店とか東京支店があるわけですから、1軒1軒スーパーにどんどん電話したらよかったんですが、それどころじゃない。みんな神戸の応援にきた。基本的にそれで正しかったと思います。一致団結してもう一度会社を再建しようという意欲、あるいは会社がどうなっているか情報を仕入れるには良かったと思いますが、ここに入ったら(神戸の外に)出られない。
今オリバーソースは再建中です
商品開発をする開発棟が無傷だった以外、工場はほとんど全焼でした。でも、「何とかなるのちゃう」「借金したらええやないか」と再建しようとなったのが2週間後くらいです。一番怖いのは得意先に荷物が着かないことですね。いろんな倉庫にあるものを大事な得意先から少しずつ出すことになりました。とりあえず、復興部隊を神戸において「今オリバーソースは再建中です」「何とかもう少しご猶予をください」とお願いしました。
混乱していて指揮系統の確立が本当に難しかった。結局、指揮官がたくさんいれば余計に交錯してダメになるということで、僕から命令1本で号令を出していた。ただ、営業に関しては私も全然情報がつかめないので営業本部長に任せて、何とか問屋さんにオリバーソースを売るところを確保してもらえるように指示しました。
再建をプラスに
後から考えて言えることですが、震災前にやりたかったことがいっぱいあったんですね。工場をきれいにしたいとか。
HACCPという衛生管理の問題や、(製造)ラインをああしたいとかこうしたいとか。工場を移転することで一気に済んだところがあります。以前の工場で本社としての機能があればこういう改革はできなかったと思います。人員は減って、商品自体はかなり良くなっていると思います。今までやりたいと思っていたことを全部やりました。
誰からも非難されずに堂々と借金もできたし、新しいシステムを作りあげるにしても真剣にそこだけに集中できるというのが良かったなと思います。
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