2017/01/17
誌面情報 vol47
Oral History05 どんな責任も負かうら放送を最優先
兵庫エフエムラジオ放送株式会社代表取締役社長(当時)小榑雅章氏
聴取日:2002年7月24日
「助けてくれ」と言われた
私はマンションの7階にいました。「ガーン」ときたわけです。会社は24時間放送ですから泊まりがいるので電話をかけて「どうだ?」と言ったら、「放送はしているが、怖い」と言うんです。「すぐ行くから」と言って、私は歩いて外に出ましたが、まだ真っ暗でした。
すると3軒目の家がつぶれていました。ちょっと行ったところで「助けてくれ」と言われました。ただ、「自分の力と計って、絶対にこの梁は持ち上がらない」ということと「放送という使命のために、自分は絶対行かなければならない」ということを思いながら、知らぬ顔をして通り過ぎて行ったわけです。今でも嫌な思い出です。
情報を盗もう
放送局の使命としては情報を何とかして流さなければならないことでしたが、情報がどこからも何もこないという段階で、「盗もう」私はと言ったのです。自家発電がありますから大阪のテレビ放送が入ります。テレビをニュース源にすると「何とかによれば」と断って流さなくてはならないわけですが、「何でもいいから流していけ」と指示をしました。
どうやって人間を確保するかというときに、緊急用の電話が鳴って、「こられません」とある社員が言った。後になって、総務の人間がきていない社員に「大丈夫か」と電話で聞いていたんです。普通なら美談ですね。でも、私は怒りました。緊急用の電話の割り当てはうちの会社に1台しかないんですよ。そこへいろいろな情報がくるわけで、社員の安否を尋ねているのではプライオリティが違うじゃないかと。そのとき、私は「鬼」だと言われました。かなり喧嘩になりました。
放送会社が情報を流すべき義務があって、それがいかに重要か分かっているわけですが、自分の家がつぶれていると技術部長がやってこない。何をおいてもこないといけないのに翌日になって会社に来たのです。私は放送の使命を共有するという基盤がない限り組織というのは保たない、と思いました。
非常電源がなくなる
「非常電源は、社長、8時間しか持ちません」と、朝10時くらいに言われました。(午前)6時に切り替わってるので、午後2時か3時には非常電源がなくなる。油を買いに行こうにも何もないわけです。一番近いダイエーに歩いて行ったんです。震災のときにいったい何が必要だったかというと、私にとって一番重要なのはハイテクの機器とかでなく(非常電源の燃料を運搬する)ポリタンクだったんですよ。ポリタンク3つしかなかったので(私が)何回も往復したわけです。
そうやって燃料を確保しましたが、3日目になったときに「連続燃焼をこれだけしても大丈夫という設計はされてません。ボイラーが爆発するので、なんとか配電をお願いできないか頼んでください」と言われました。関電の神戸支店長が友人でしたので、そこに行き、わけを話すと1時間後にはきてくれました。
社員に「出てこい!」と言えたか
もっと大事なことは引っ越さないで大丈夫なのかということでした。夜中になると余震もあるし、なくても「ギーッ」と音が出て実際に揺れる。3日目になると少しは余裕が出てきましたが、神戸市から退去命令が出て、怖さもあった時ですので本気で引っ越すことを考えましたね。しかし、できないのですよ。
社長にしかできない判断は、この建物をどうするとか引っ越しはしないとか、燃料をどうするか、関電に掛け合うとかいう根本的な存立の問題とか、あるいは初めに情報をどうやって確保するかというようなことはありますが、後からのものは社員に任せました。基本的には陣頭指揮でやりました。
いくつかの決断をしましたが、社員に「出てこい!」と言えたか。やはり言えなかった経営者が多いと思いますよ。しかし、情報として(市民からの)FAXがどんどん入ってきたりすると、この神戸でたった1つの放送局だと思いましたから、そういう中で、どんな責任も負うからこれ(放送)を最優先にしようと思いました。
誌面情報 vol47の他の記事
- 「阪神・淡路大震災 経営者の証言から読み取るBCMの本質」(巻頭インタビュー 京都大学防災研究所教授(現・防災科学技術研究所理事長)林春男氏)
- Oral History 阪神・淡路大震災 経営者の証言から読み取るBCMの本質 (前編)
- Oral History 阪神・淡路大震災 経営者の証言から読み取るBCMの本質 (後編)
- 特集1 爆速経営を妨げない ヤフーのリスクマネジメント
- ERM本質と手法 企業の成長を妨げるリスクを取り除く
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方