2020/02/14
ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるために
動物の恐怖への反応は人間とは異なる
動物が建物火災に閉じ込められた場合の反応は、人間の避難行動とは大いに異なります。確かに動物も怖がって、おそらくパニックになるでしょうが、ほとんどの場合、ペットは建物から脱出しようとしません。
元フィラデルフィアの消防士でレッドポー緊急救援チームの創設者であるジェン・リアリー(Jen Leary)さんによると、動物は、その場所が危険になった場合でも、常に彼らが最も安全だと感じる場所に引き寄せられます。ほとんど全ての家庭で飼われている動物にとって、 その安全な場所とは自分のケージやいつも過ごしている家のどこかなのです(注2)。

リアリーさんは、大規模な建物火災の後であっても、家の中でペットを発見したことがあるそうです。
犬はソファやベッドのような大きな物の下に隠れがちです。猫は同じようにこういった場所に逃げ込むだけでなく、クロゼットやパントリーの奥の隅に隠れることもあります。
猫は入り込める壁と壁の隙間に無理やり入り込んで隠れていることもあります(注2)。消防隊は全焼していない家でオーバーホールを行う際、このことを念頭に置いておいてください。
緊急時の基本はペットも人間も同じ
人間と動物は多くの点で異なりますが、特に解剖学と生理学の分野においては、顕著な類似点もあります。救急医療に携わる消防隊員は、逃げ遅れた者などを発見して火災建物内から救出した場合、気道確保、人工呼吸、心臓マッサージといった緊急時のABC(基本)を行います。同様に緊急時のペットへも、人間の患者と同じ優先順位でアプローチすることができます。
犬と猫は人間と同じ気道機能を持っていますが、これらの機能は大変異なる場所にあります。ほとんどの犬の鼻口部は前方にせり出していますが、犬によっては鼻口部のせり出し部分が短い場合もあります。人工呼吸を行う場合、犬の気道の解剖学的違いを考慮する必要があります。猫の気道は人間や犬の気道よりも狭く短く、コンパクトです。犬と比べると、猫の気管を見つけてアクセスすることはやや難しいといわれています。
犬と猫の呼吸数は人間とは若干異なります。子犬の通常の呼吸数は1分間に15〜40回、青年期の犬と成犬は1分間に18〜24回。猫の呼吸数は1分間に20〜30回です。犬は猫より息が荒く、一部の猫は怖がったり、ストレスを感じたり、熱くなったりすると息が荒くなります。
脈拍を測ることで、犬や猫の脈拍数が正常の範囲内であることを確認することができます。大腿動脈は、胴体とつながっている辺りの後足大腿部の内側にあり、そこで脈を測ることができます。難しいので、犬や猫の前足の同じような場所で脈拍を測ろうとしないでください。頸(けい)動脈で脈を測るのも難しいので、やめておきましょう。
子犬の通常の心拍数は毎分90〜120回で、普通の犬は毎分60〜110回。猫の通常の心拍数は毎分120〜140回です。猫の脈拍は犬よりも測ることが難しいことに注意してください。
犬や猫の灌流(かんりゅう、血液の循環)の測定は、人間のそれとは大きく異なっています。救急医療に携わる消防隊員は通常、人の場合、遠位毛細血管再充満をチェックして灌流を測定します。犬や猫は毛や毛皮があるので、毛細血管再充満(CRT/capillary refilling time)評価技術は役に立ちません。
従って、犬や猫の血液循環を知る上での主な指標は、歯茎の色です。普段、犬と猫の歯茎はピンク色をしています。青白い、灰色の、または白い歯茎は非常に貧弱な灌流を示しています。
犬や猫の歯茎の色が異常に変色している場合は、ショック状態に陥っている疑いがあります。こういった場合は、獣医への即時搬送が必要です。
ペットライフセーバーズ:助かる命を助けるためにの他の記事
- ペットの熱中症対策
- 補助犬およびサービスアニマル(情緒障害サポート犬)の救急搬送
- 火災における犬と猫の救急医療判断と治療
- 日本の災害現場では消防士がペットを救命処置できない
- ペット同伴避難拒否とその法的課題
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方