2017/03/07
安心、それが最大の敵だ

洪水前・後にやるべきこと整理
鬼怒川決壊に戻ろう。この大水害で浮き彫りになった多数の逃げ遅れの解消策として、従来の行政主体のタイムラインより更に一歩踏み込んだ「マイ・タイムライン」(個人避難計画)が、2月に常総市民によって作成された。地域対象ではなく、家庭や個人に絞って逃げ遅れを防ごうという全国初の試みだ。市民一人一人が地域の特性を理解し個別に「避難計画」をつくという画期的な取り組みである。
鬼怒川と小貝川の氾濫被害の軽減を目指す「減災対策協議会」(国交省関東地方整備局、流域10市町、筑波大学などで構成)は、豪雨時に鬼怒川が越水した若宮戸と根新田の2地区をモデルに選び、2016年11月から検討会をスタートさせていた。若宮戸地区では第1回で大河川に挟まれた地形の特徴などを学習した。市民41人が参加した。大半が被災者で、水害が起きやすい地域に住んでいることを改めて学んだ。
第2回の今回は洪水時の行政情報(避難勧告・避難指示)などを学んだ上、参加した市民同士で、どんな行動をとればいいか意見交換した。そして国交省が用意した専用ノートに従ってまず、参加者は「どこへ誰が避難するか」「避難にかかる時間はどれくらいか」「どんな準備が必要か」などを自分の家族構成や自宅周辺の地形などを考慮して書き出した。
次に国や市からの豪雨や洪水情報をもとに「氾濫発生の何時間前には避難を完了したか」「避難開始は何時間前にするか」を決めた。家族との連絡方法など具体的な手順を書き込んだ。
・会社員のKさん(48)は鬼怒川水害時、最初に避難した避難所に濁流が押し寄せ、つくば市の親戚宅まで避難した。マイ・タイムラインには高台にある「石下総合体育館」を新たな避難場所に選び、仕事や学校でバラバラの家族のために携帯電話のラインで連絡を取り合うことなどを記入した。
・会社員のIさん(57)は先の水害で体の不自由な父親を心配するあまり逃げ遅れた。そこで「数時間前に父親の避難準備開始」と書き込んだ。
参加者は被災体験が身に染みている。国交省下館河川事務所の里村真吾所長は「ここまで参加者が自分の計画を完成させてくださるとは思わなかった」と手ごたえを感じていた。同協議会は周辺の地区や自治体にもマイ・タイムライン作りを広げていく方針である。
アドバイザーとして参加した川島宏一・筑波大学教授は「リュックに必要なものを入れておくなど、避難への意識を日頃から日常生活に溶け込ませておくことが大切だ。マイ・タイムラインをきちんと理解して家族たちにも伝えて共有化して欲しい」と助言した。(参考資料:「朝日新聞」茨城版、2月6日付、「茨城新聞」同日付)。
(続く)
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方