2017/05/19
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
港区の公営住宅における「原状復帰義務免除」そのポイントは?
港区の報道発表資料にあるように、港区が4月26日に発表した内容のポイントは2つあります。

資料のポイント
2、区民向け住宅にお住まいの方の家具転倒防止器具取付けに係る原状復帰義務を免除します。
どちらも画期的政策ですね。でも、1と2は実務上大きな違いがあります。
1は、防災課の頑張りで実現可能なのですが、2は、公営住宅関連部署との協力が必要で、防災課だけが熱くても実現不可能なのです。原状回復義務に関連する港区の条例は区営住宅条例になるのですが、普段は防災課とは関連性がない分野です。
(管理義務)
第十六条 区長は、常に区営住宅及び共同施設の状況に留意し、その管理を適正かつ合理的に行うよう努めるものとする。
(修繕の義務)
第十七条 区長は、法第二十一条の規定により、区営住宅及び共同施設の修繕の義務が生じた場合は、遅滞なく修繕するものとする。
(費用負担)
第十八条 次に掲げる費用は、使用者の負担とする。
一 前条に規定する場合を除き、修繕に要する費用
二 電気、ガス、上水道及び下水道の使用料
三 じんかい及び排水の消毒、清掃及び処理に要する費用
四 給水施設、し尿浄化施設、汚水処理施設、昇降機及び共同施設の使用及び維持に要する費用
五 前各号に掲げるもののほか、区長の指定する費用
2 区長は、前項第一号又は第四号に規定する費用のうち、使用者に負担させることが適当でないと認めるものについて、その一部又は全部を使用者に負担させないことができる。
(使用者の保管義務等)
第二十条 使用者は、当該区営住宅及び共同施設の使用について必要な注意を払い、これらを正常な状態において維持しなければならない。
2 使用者又は同居者の責めに帰すべき理由により当該区営住宅又は共同施設を滅失し、又は損傷したときは、使用者は、これを原形に復し、又はこれに要する費用を賠償しなければならない。
(許可事項及び届出事項)
第二十二条 使用者は、次の各号のいずれかに該当する場合は、区長の許可を受けなければならない。
一 区営住宅の模様替えその他区営住宅に工作を加える行為をしようとするとき。
二 区営住宅の敷地内に工作物を設置しようとするとき。
2 区長は、前項の許可に当たり、必要な条件を付することができる。
3 区営住宅を一月以上使用しないときは、使用者は区規則で定めるところにより、届出をしなければならない。
原状回復義務の免除を実施するためには18条2項の「区長は、前項第一号又は第四号に規定する費用のうち、使用者に負担させることが適当でないと認めるものについて、その一部又は全部を使用者に負担させないことができる」を、使用者に負担させない部分を解釈で広げなければいけません。
縦割り行政では実現不可能なことをあっさりクリアされているということで、普段から港区は各部署の連携がうまくいっているのかなと推測しました♪で、22条なのですが、さらに港区区営住宅条例施行規則の20条で提出のための様式が定められています。
第二十条 条例第二十二条第一項第一号の規定により区営住宅の模様替えその他区営住宅に工作を加える行為(以下「模様替え等」という。)をしようとする者又は同項第二号の規定により区営住宅の敷地内に工作物を設置しようとする者は、区営住宅模様替え・工作物設置許可申請書(第十七号様式)を区長に提出しなければならない。
2 区長は、前項の申請書の提出があった場合において、区営住宅の維持に支障がなく原形に復すことが容易であると認めたときに限り、区営住宅の模様替え等又は区営住宅の敷地内の工作物設置を許可するものとする。
3 区長は、区営住宅の模様替え等又は区営住宅の敷地内の工作物設置の可否を決定した場合は、区営住宅模様替え・工作物設置許可・不許可書(第十八号様式)を交付するものとする。
結論からいうと港区は、条例も規則も変更していません。実務的に変更されたのは、まず新規入居者に渡すしおりです。既存の入居者には、以下のお知らせが配布されました。
■港区区民向け住宅すまいのしおり
(平成29年4月1日改訂・編集部一部修正)
資料PDFはこちらから→
天井に直接つけた照明器具の跡や自然現象によるクロスの変色、家具の設置跡と同じように「家具転倒防止器具取り付けにおける釘穴、跡」が原状回復義務が免除されるものとして備考欄に書かれています(ただし後述する工作物設置許可申請提出は必要です) 。
既存の入居者には、以下のお知らせが配布されました。
■港区では、家具転倒防止器具を支給しています
(平成29年4月・編集部一部修正)
資料PDFはこちらから→
既に入居されている方は、この「お知らせ」により、新規入居者は「しおり」によって、規則20条17条様式の区営住宅模様替え・工作物設置許可申請書を区長に提出することになります。そして、許可を受けることで退出時に原状に復することが免除されます。
従来ある様式をそのまま利用して、申請書を出すというワンクッション置くことで、むやみやたらと穴が開けられてしまうという状態も避けられますよね!
このように、区長と防災課の熱い思いのもと、住宅課も一緒になって家具の転倒防止の原状回復義務免除を可能にしたのです。
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