2017/06/05
安心、それが最大の敵だ

孤立から全員無事脱出
国土交通省の昼夜を徹した緊急排水によって、孤立した空港ビルから被災4日後には避難者1695人全員が無事脱出することが出来た。(当初1週間はかかると見られた)。その間の状況を、前線指揮をした仙台空港ビル(株)代表取締役伊藤克彦氏(当時)にうかがった。取材メモのまま箇条書きとしたい。
・空港内の貨物ターミナルで、津波で流されたハイブリッド車の電池が爆発炎上し、火災が 起きた。500m離れたところにジェット燃料タンクがあったが、地震後、バルブを閉めた。幸いタンクは倒れなかった。延焼することは無かった。
・津波が来襲した時、空港に飛行機が1台も駐機していなかったことも幸いした。通常飛行機は着陸後、燃料を満タンにし1時間後、離陸するパターンが多い。もし津波来襲時に燃料を満タンにした航空機が駐機していたとすると、大きな火災が発生していたかも知れない。この時間帯は飛行機も少なく幸いした。
・津波来襲時、上空に着陸予定の中華航空機(台湾の航空会社)がいたが、管制塔から指示し鹿児島空港に変更し着陸した。
・津波が来る前までは、ビル内の電源は落ちなかった。津波が来てからは、電源施設が1階にあったため空調・通信、それから水も…すべてダメになった。
・結局、ビルは4日間孤立状態だった。だが避難した方1695人は、死者・けが人ゼロで、被災4日目には自力で脱出することができた。お年寄りや病気の方もいた。
・ビルそのものは、地震での被害は多少あったものの、ガラスが割れる等致命傷となる損傷は無かった。ガラスが割れなかったことは、避難中の暖房対策として非常に助かった。老人ホームから100人の高齢者が避難しており、ガラスが割れなかったことは本当に 助かった。
・最初はどこの誰が、何名避難しているか、把握できなかった。まずは「災害対策本部」 を組織し、私が本部長となった。
・航空会社が何とか外部と連絡をとるため、電話を掛けていたことが功を奏したと思うが、偶然か、幸運なことにエア・ドゥ(北海道を拠点とする航空会社)と固定電話がつながったとの情報が入ってきた。その時「NHKに仙台空港で2000人孤立と報道してくれ」と頼んだ。
・3日目に周辺の水が引き始めたが、余震で大津波警報が出ていたため「外に出ないよう」 呼びかけた。その後、徒歩で脱出し始める人が出てきた。
・避難者は、内陸方面に滑走路を歩いて脱出した。4日目には、全員脱出できた。社長で ある自分が最後に出た。
・滑走路面をメンテナンスしていた前田道路(株)が、3000m滑走路のうちの1500mを直ちに清掃・土砂撤去した。前田道路(株)の貢献度は極めて大きい。
・一部、滑走路が使用できるようになり、米軍の「トモダチ作戦」が始まる。精鋭部隊が入り、作業は粗かったがすごい勢いで片付けが進んだ。
・ビルには多くの遺体も収容した。
・空港ビルは16年前に建設されたが、津波を想定していない。3日目くらいにこのビルの設計・施工者である熊谷組などが来た。「復旧は向こう1年はダメでしょうね」と言われた。私は「6カ月でやろう」とあえて言った。かけ声を掛けることが大事で、みんなをその気にさせることが必要である。団結力が生まれた。
震災後わずか1カ月に国内線が復旧し、また半年で国際線の開通により全面復旧にこぎつけた。打ちひしがれた東北に明るいニュースをもたらしたのだった。(参考文献:国交省東北地方整備局配布資料)
(つづく)
安心、それが最大の敵だの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方