2013/07/25
誌面情報 vol38
これが26年度以降の施策の柱になる!?
国土強靭化に向けた施策評価の結果一覧
国土強靭化に関する施策の検討を進めてきたナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会は5月末に、国土の強靭性の推進に向けた当面の対応として、事前に備えるべき目標と、起きてはならない45の事態を整理し、それを回避するための各省庁の施策を12分野から評価した。本誌では、①起きてはいけない事態に対して、現在、取り組んでいる施策の評価結果と、②施策分野別の評価結果を以下にまとめた。①の評価結果から導き出された課題は、各省庁において早急に対応を検討し、必要なものは26年度概算要求に反映されることになる。また、②の評価結果から導き出された課題についても、中長期的な施策や、関連する見直しも含め、各省庁において検討を行うことになる。ナショナル・レジリエンス懇談会がまとめた当面の方針を受け、政府は6月14日閣議決定された経済財政運営の基本方針「骨太の方針」の中に、“南海トラフ巨大地震、首都直下地震などの大規模災害対策を推進するとともに、広域応援等を円滑に実施するための「災害対応の標準化」に向けた検討や公共施設等の耐震化を含めた防災・減災の取り組みを進めること”を盛り込んだ。

★ページの見方 下線は目標 太字は「起きてはならない事態」 ●は評価結果
①「起きてはいけない事態」を回避するという観点からの、現在取り組んでいる施策の評価
大規模災害が発生したときでもすべての人命を守る
大都市での建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊や住宅密集地における火災による死者の発生
●各種施設の耐震化については一定程度の進捗が図られているが、地方公共団体毎に耐震化率に差異が生じるなど施設所有者別による進捗の違いが生じている。また、各府省庁それぞれが取り組みを進めているため、例えば鉄軌道の耐震化が完了したとしてもその沿線の建物の耐震化が完了していなければ、鉄軌道に大きな被害が出ることも想定され、関係機関・施設所有者の連携した取り組みを進めることが必要である。
●長時間・長周期の振動が建築物に与える影響に関する知見が不足していることから、知見を深めることが重要である。
●想定を超える地震が発生すれば、広域にわたる構造物や住宅等の倒壊により多数の死者が出るおそれがある。
不特定多数が集まる施設の倒壊・火災
●各種施設の耐震化については一定程度の進捗が図られているが、地方公共団体毎や学校施設の運営主体毎に耐震化率に差異が生じているなど施設所有者別による進捗の違いが生じている。
●金融機関等については、施設数が多いことや規模等に違いがあることから、全ての施設で同水準の対策を実施することは困難である。また、郵便局については、局数が多く、日本郵便(株)において、数年計画で耐震化を実施する必要がある。
●9割が避難所となる学校施設において、吊り天井等の非構造部材の耐震対策については、構造体の耐震化と比べ著しく遅れており、耐震対策の一層の加速が必要である。また、天井等落下防止対策の加速化を図るため、専門的技術者を養成し、技術的な支援体制の整備を図る必要がある。
●地域コミュニティの拠点施設であり、東日本大震災発災時にはその約5割が避難所となった公民館においては、地域住民の防災力向上のための取組を実施するとともに、建物の構造体、非構造部材ともに耐震化が著しく遅れている状況であることから、早急な耐震対策も実施する必要がある。
広域にわたる大規模津波等による多数の死者の発生
●津波防災地域づくり、地域の防災力を高める避難所等の耐震化、アラートの自動起J動機の整備等による住民への適切な災害情報の提供、火災予防・危険物事故防止対策等が進められているが、取り組み主体となる地方公共団体の財政状況等により一部で計画的に進捗していないこと、南海トラフの巨大地震等の広域的かつ大規模の災害が発生した場合には十分に対応できない恐れがある等の課題がある。
●L2規模の津波に対しては、施策の効果発現に時間を要するため、整備途上では人的被害が発生する恐れがあるとともに現状の目標を達成しても物的被害は解消されない。L1規模の津波でも、整備途上では人的被害が発生する。
●設施整備が途上であることが多いこと、災害には上限がないこと、様々な機関が関係することを踏まえ、関係機関が連携してハード対策の着実な推進と警戒避難体制整備等のソフト対策を組み合わせた対策が必要である。
●東日本大震災において河川堤防上が避難地・避難路として活用されたことも踏まえ、広範囲にわたって浸水被害が発生した場合に高台となる河川堤防上を積極的に活用するなど、防災機能の強化を図ることが必要である。
●河川・海岸堤防等の整備にあたっては、地域特性に応じて、自然との共生及び環境との調和に配慮する必要がある。
●海岸防災林の整備にあたっては、地域に根差した植生の活用等、自然と共生した多様な森林づくりが図られるよう対応する必要がある。
●巨大な人口・機能が集積する大都市圏の湾域の港湾においては、低頻度大規模津波に対しても、地域の実情等を踏まえて、ハード・ソフト施策等を総合した防護水準の検討が必要である。
広域かつ長期的な市街地の浸水
●地域の防災力を高める避難所等の耐震化、Jアラートの自動起動機の整備等による住民への適切な災害情報の提供、火災予防・危険物事故防止対策、流域における減災対策としての土地利用規制等が進められているが、取り組み主体となる地方公共団体の財政状況等により一部で計画的に進捗していないこと、広域的かつ大規模の災害が発生した場合には十分に対応できない恐れがある等の課題がある。
●想定している計画規模に対する対策に時間を要するため、計画規模を超える降雨のみならず、それ以下の降雨においても堤防の決壊等により大規模な浸水被害が発生する恐れがある。
●施設整備が途上であることが多いこと、災害には上限がないこと、様々な機関が関係することを踏まえ、関係機関が連携してハード対策の着実な推進と警戒避難体制整備等のソフト対策を組み合わせた対策が必要である。
●九州豪雨災害において河川堤防が浸透によって決壊したことも踏まえ、堤防の量的整備のみならず質的強化を図ることが必要である。
●超過洪水等が発生した際に被害を最小限に留めるため、既存盛土の活用、氾濫水を河川に戻すための水門の設置、霞堤の活用等、氾濫域における面的な対策や河川と下水道等とが連携した施策を講じることが必要である。
●河川・海岸堤防等の整備にあたっては、地域特性に応じて、自然との共生及び環境との調和に配慮する必要がある。
大規模な火山噴火・土砂災害(深層崩壊)等による多数の死傷者の発生のみならず、後年度にわたり国土の脆弱性が高まる事態
●地域の防災力を高める避難所等の耐震化、Jアラートの自動起動機の整備等による住民への適切な災害情報の提供、火災予防・危険物事故防止対策、大規模土砂移動検知システムの整備、土砂災害警戒区域の指定等が進められているが、取り組み主体となる地方公共団体の財政状況等により一部で計画的に進捗していないこと、広域的かつ大規模の災害が発生した場合には十分に対応できない恐れがある等の課題がある。
●想定している規模以上の土砂災害(深層崩壊等)、火山噴火等に対して、対応が困難となり人的被害が発生する恐れがある。
●施設整備が途上であることが多いこと、災害には上限がないこと、様々な機関が関係することを踏まえ、関係機関が連携してハード対策の着実な推進と警戒避難体制整備等のソフト対策を組み合わせた対策が必要である。
●山村の地域活動の停滞に伴う森林の国土保全機能の低下、農地の管理の放棄等に伴う農地の国土保全機能の低下が懸念されるとともに、ため池・基幹的水利施設等の耐震化、全国に多数存在する山地災害危険地区等に対する治山施設の整備等の対策に時間を要するため、人的被害が発生する恐れがある。また、森林の整備にあたっては、地域に根差した植生の活用等、自然と共生した多様な森林づくりが図られるよう対応する必要がある。
●地域コミュニティと連携した施設の保全・管理等のソフト対策を組み合わせた対策が必要である。
情報伝達の不備等による避難行動の遅れ等で多数の死傷者の発生
●Jアラートの自動起動機や交通情報収集・提供装置等の整備、河川情報・津波の避難・情報の提供等による住民への適切な災害情報の提供、洪水・内水・津波・高潮リアルタイム火山ハザードマップ等の作成等の減災対策等が進められているが、取り組み主体となる地方公共団体の財政状況等により一部で計画的に進捗していないこと、南海トラフの巨大地震等の広域的かつ大規模の災害が発生した場合には十分に対応できない恐れがある等の課題がある。
●警察が収集する交通情報を補完する民間プローブ情報でも交通状況を把握できない道路があることが課題である。
●情報提供に必要な電力その他の主要インフラの機能が喪失した場合の対応が課題である。
●施設整備が途上であることが多いこと、災害には上限がないこと、様々な機関が関係することを踏まえ、関係機関及び住民が連携して避難情報提供設備装置の着実な整備と避難訓練、防識の啓発のソフト対策を組み合わせた対策が必要である。
●情報伝達の課題については、関係者が多岐にわたることから、情報を発信する官だけでなく情報の受け手であるとともに提供元である民間も含めた幅広い観点からの検討が必要である。
誌面情報 vol38の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方