2017/08/22
事例から学ぶ

世界600拠点(支店・営業所含む)で事業展開するオムロン(本社:京都市)は、全世界の社員の安全を守ることを基本方針として日々の安全対策に取り組んでいる。
同社の主力事業は、制御機器事業、電子機器事業、車載事業、社会システム事業、ヘルスケア事業に分けられる。ここに、研究開発など本社機能が加わり、世界600拠点(支店・営業所含む)で事業を展開している。社員数は海外を含めて延べ約3万6000人にのぼる。出身国別の割合は、日本人が31.7%に対して、中華圏が34%、アジアパシフィック地域が16.7%とグローバル化が進んでいる。
同社は、長期ビジョンであるVG2020が2011年にスタートしたのを機に、従来のリスクマネジメント活動を見直し、新たに「統合リスクマジメント」をスタート。統合リスクマネジメントでは、グループの存在を危うくするか、重大な社会的責任が問われるリスクをグループ運営上の最重要リスクとして「Sランク」リスク、重要なグループの目標の実現を阻害するリスクを「Aランク」リスクとしている。これらは、毎年、企業倫理・リスクマネジメント委員会で議論した後、毎年、執行会議での審議を経て決定される。
事業継続リスクはSランクと指定している。大規模地震など当該リスクが顕在化した場合に備えBCPを整備し、重要機能は継続できる体制を整えている。
様々の情報源からリスクを把握
グローバル総務部では、日々、外務省、米国務省、アシスタンス会社、コンサルティング会社、メディア、保険会社などの情報源からリスク情報を収集し、重要なものについては、即日、関連部門・リージョンの本部に対して情報を流している。また、各拠点での危機管理体制については、国や地域によって想定されるリスクが異なるため、まずはその国・地域ごとに、発生しうるリスクを発生確率と影響の大きさから分析し、そのリスクが発生した際の対応マニュアルを国・事象別に整理している。
本社グローバル総務部においては、同社に関係するリスクのうち、主に災害(自然災害、火災、感染症、戦争、暴動、テロ等)や対企業犯罪・対社員犯罪を担当しており、海外の地域統括本部のリスクマネジャーと連携し社員安全に係るリスクマネジメント対策を推進している。
また、同部には上述を担当するリスクマネジメント部隊の他に、コーポ―レートリアルエステートチーム(CRE)とヘルス&セーフティチーム(H&S)の2チームが存在し、CREは工場建物の安全確認から対策における提案活動やオフィス賃借の各種条件交渉などを担当し、H&Sは主に工場内における労働安全衛生についてものづくり部隊と連携しながら審査および改善指導を進めており、当該の3チームが連携し、オムロングループの全社員が安全な建物の中で、安全な就労環境が確保され、様々なリスクに対しても安全となるようにBCPをはじめとした各種の対策を実施している状況であるという。
海外出張などの海外安全対策
海外への出張者の安全対策も強化している。グローバルのオムロングループ全体での出張回数は年間約1万2000件に上る。かつては出張時の安全対策は各国・リージョンごとに任されていたが、2014年からはグローバル総務部がグローバル全体を管理することになった。
基本的なルールとしては、出張国の危険性に応じて、出張禁止(prohibit)、
出張制限(restriction)、注意喚起(caution)の3つのレベルを設定。出張禁止については、必ず本社が決定して全世界に指示を出す。
「仮に、他の国やリージョンから出張禁止地域の要望があれば、即、協議し対応を決めますが意思決定機能は本社に一本化しています」(グローバル人財総務本部 グローバル総務部リスクマネジメント主査 櫛田 昌徳氏)。
出張制限については、現地の判断で出せるが、決定の結果についてはグローバル全体に適用される。つまり、どこかの国で第3国への出張制限をかければ、他のあらゆる国もその結果に従わなくてはいけない。
注意喚起については、どこの国からも自由に出すことができ、その情報はグローバル全体に流される。
櫛田氏は「規制国にどうしても出張しなくてはいけないような場合は、出張者が所属する事業部の長が可否を判断します。事業の必要性と従業員の安全性を見比べて判断できるのは、その事業部の長でしかないからです。それでも出張するということになれば、出張者の警護、移動時のコンボイ形成と云った安全性を高めるあらゆる施策を実施し、コストがかかっても、グループ全体で出張者の安全確保にあたります」と説明する。

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