2013/11/25
誌面情報 vol40
「安全神話」負の連鎖を断ち切る
福島第一原子力発電所の事故を他人事として批判することはたやすい。しかし、どれだけの組織が“他山の石”として自らの危機管理体制の改善に取り組んでいるだろうか。福島原発事故で問題視された津波という災害に対する想定の甘さ、経営層の危機意識の欠如、過酷な事態を前提とした対策の低さ、経営層や現場の意思決定プロセスの混乱などは、リスクの大きさこそ違っても、各組織が抱える危機対応の共通課題といえるだろう。東京電力における事故後の取り組みを改めて振り返るとともに、そこから導き出された改善策を整理してみたい。
福島第一原子力発電所の事故後、東京電力では、社内での事故調査委員会の報告書に加え、国会や政府、民間の事故調委員会の報告書、さらには海外の専門機関などの助言などを踏まえ、原子力発電所の安全確保に向けた抜本的な改革のあり方を検討してきた。2012年9月には、取締役会の諮問機関として「原子力改革監視委員会」「調査検証プロジェクトとチーム」を発足させるとともに、廣瀬直己社長をトップとする原子力改革特別タスクフォースを設置。今年3月には、現在の改革の実質的なロードマップとなっている「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」を発表した。 改革の基本方針は、外部専門家が監視主導する体制であること、・各事故調査報告書や専門家の提言を真摯に受け止めて実行すること、「世界最高水準の安全と技術」を目指し原子力改革を推進すること─の3点。
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/670m/img_1ac4ca62578e2d2507ee974ec5e435ed24518.png)
具体的な改革として、①経営層からの改革、②経営層への監視・支援強化、③深層防護(※)提案力の強化、④リスクコミュニケーション活動の充実/リスクコミュニケーターの設置、⑤発電所および本店の緊急時組織の改編、⑥発電所組織の見直しと直営技術力強化の6本の柱を掲げている。
これらの対策は、原発事故に限らず、広く組織の危機対応にあてはめて考えることができるはすだ。
※深層防護は原子力の安全に対する基本的な考え方。第1層(異常の発生の防止)、第2層(異常の拡大の防止)、第3層(異常が拡大しても過酷事故に至らせ ない)、第4層(過酷事故の進展を防止する)、第5層(放射性物質から人と環境を守る)の5層で、前の層の対策が有効ではないものとして、その層だけで食 い止めて独立に事態を収束する考え方。 |
誌面情報 vol40の他の記事
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方