2020/07/30
危機管理担当者が最低限知っておきたい気象の知識
局地的な雷雨の予測はできるのか?
図1で取り上げた山梨県山梨市の例に話を戻します。局地的な大雨に見舞われたこの日、どのような防災気象情報が発表され、警戒が呼びかけられていたのでしょうか?
記録を見ると、雨雲が発達し始めた当時には、雷注意報しか発表されていませんでした。山梨市に対して大雨注意報が発表されたのは局地的な集中豪雨が始まった後、さらに大雨警報に切り替わったのは雨のピークを超えた後のことです。土砂災害警戒情報も発表されましたが、その時点では雨雲自体は衰退しています(下図参照)。

局地的な豪雨が突然発生するような例の場合、大雨の注意報や警報が後追い的に発表されるケースは少なくありません。気象予測では、雷雲が急発達するかもしれないという全体的なきな臭さまでは把握可能ですが、大雨をもたらす雨雲が「いつ現れるか」「どこに現れるか」「どの程度の雨量となるか」などを事前に詳しく予測することはなかなか難しい状況です。このため、実際に雨雲が発生・発達し、気象レーダーのエコーや10分間の雨量などを見て危ない場所が確認できた時に初めて注意報や警報などの情報が出る場合があるわけです。
こうした急発達するタイプの豪雨に備えるためには、雨雲が急に発達する気象条件が見込まれるのかを把握しておくとよいでしょう。テレビの気象情報などで、「上空に寒気」「大気の状態が不安定」といったキーワードが伝えられるのであれば、大雨になる可能性がある日だと判断できます。「雷注意報」もそうした可能性を示す情報の一つです。
また、最近の気象ニュースでは雷が発生する確率(発雷確率)を示した図を使って解説がなされることもあります。発雷確率が高い場合には、急発達するタイプの大雨となる可能性を念頭に入れておきましょう。
雨雲が急発達した時に確認すべきこと
雨雲が急発達した時には気象レーダーや雨量の情報を使って次の二つのポイントを確認し、危険性や影響を判断しましょう。
1)雨雲の動き具合とスピード
同じ所に長時間停滞する場合には雨量がまとまりますので、どの程度のスピードで移っていくのかを見定めましょう。雨雲が発生し始めた時間に遡り、現在までの様子を見ていくことで進行スピードを把握します。
雨雲がほとんど停滞していたり、別の場所に移っていくスピードが遅かったりする場合には、雨量がまとまる可能性があるため危険と判断します。
2)雨雲の直下での雨量
雨雲の下でどの程度の雨量となっているのか確認します。この時に見るべきものは1時間雨量ではなく10分間雨量です。アメダスの雨量計は約17キロ四方に一つの割合で全国的に設置されていますが、雨雲の大きさがそれよりも小さいことがあります。アメダスのデータだけでは雨量をうまく捉えられないことがあるため、都道府県や市町村が設置している雨量計の情報なども併せて確認するとよいでしょう。
このようにして把握した雨雲の動き具合やスピード、雨量を元に影響を判断していきます。10分間雨量を6倍すれば大まかな1時間雨量が分かりますので、その雨量なども使って浸水の可能性などを見ていきます。感覚的にですが、10分間雨量が10〜15ミリ、15〜20ミリ、20ミリ以上と上がるにつれて影響も大きくなります。
気象庁の「雨雲の動き(高解像度降水ナウキャスト)」
https://www.jma.go.jp/jp/highresorad/index.html
アメダスの10分間雨量も表示させて雨量を確認するとともに、都道府県や市町村の雨量計データも見ていくのがおすすめ
急発達するような雨雲の場合は、対応するための時間的な余裕がどうしても限られます。そうしたタイプの豪雨に対して災害リスクが特に高い場所では、ごく短時間でできる対応を検討・準備しておいたり、急な大雨に見舞われても被害が限定的なレベルにとどまるような事前対策(例えば内水氾濫対策としてのかさ上げなど)を講じておいたりすることなどが求められます。
危機管理担当者が最低限知っておきたい気象の知識の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方