2014/01/25
誌面情報 vol41
−いま取り組むべき効果的な訓練とは−

株式会社三菱総合研究所科学・安全政策研究本部
社会イノベーショングループ
石井和

2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)(以下、A/H1N1という)の流行からはや5年近くが経過しようとしている。幸いにしてA/H1N1の病原性は低いものであったため、当時の対策の前提としていた高い病原性のインフルエンザ(鳥インフルエンザ(H5N1)等)と比較すれば、死亡者や重症患者の発生といった直接的な被害の大きさという点においては結果的に事なきを得た。
5年前と比較して、新型インフルエンザ対策に関連する法令や計画(BCP含む)、組織体制、ワクチン供給体制等、様々な危機管理のしくみ(以下、危機管理システムという)が整いつつあるものの、筆者個人の見解としては、対応イメージの固着化や危機意識の薄れ等のいわゆる風化現象が同時に進んでいるようにも思える。
我々は2011年に東日本大震災を経験した。危機管理とは臨機応変の対応力ではなく、事前の備えこそが重要であるということを学んだ。また、事前準備に関しても、危機管理システムを構築することが目的ではなく、それが社会や組織に実装され実効を伴うこと、すなわち社会や組織が災害から回復する力(レジリエンス)を真に発揮できることが重要であるということを認識した。
新型インフルエンザの危機管理システムが実効を得るためには、それをPDCAサイクルにより継続的にマネジメントしていく必要がある。マネジメントのための有効なツールとして訓練や演習(訓練と演習は厳密には意味が異なるが、以下では便宜的にまとめて訓練という)がある。本稿では、新型インフルエンザの危機管理システムを効果的にマネジメントするための訓練のあり方や訓練手法について考察したい。
新型インフルエンザ対策訓練の現状
新型インフルエンザ対策訓練は、国、自治体、企業等のいずれにおいても、地震や風水害対策訓練と比較してそれほど多く実施されている状況にない。
地震対策訓練では、地震発生直後の初動段階の訓練がよく実施される。例えば、被災現場における消火・救助・搬送等の訓練、避難所運営や救援活動の訓練、対策本部の運営の訓練、情報連絡や安否確認の訓練等である。
一方、新型インフルエンザ対策訓練は、感染者対応等の現場活動の訓練が実施されることもあるが、地震対策における初動対応のように、特定の対応段階に焦点をあてた訓練というよりも、新型インフルエンザの発生から終息までの事態進展の流れを確認したり、各段階の必要な対策を検討するというように、特定の対応段階に絞った形で実施されることが少ない。新型インフルエンザの対応は長期戦であることから、訓練で主たる対象とする対応段階が明確に設定しづらいというのがその理由の一つであろう。別の言い方をすれば、新型インフルエンザ対策訓練については、定められたお作法があるわけではなく、訓練設計の自由度も高いといえる。
なお、最近では、地震対策訓練と新型インフルエンザ対策訓練に共通して、対応力や判断力を養うための実践的な訓練や、組織単独の訓練ではなく関係機関の連携を確認するための連携訓練等が実施されるようになってきた。新型インフルエンザ対策の連携訓練としては、例えば内閣官房が主催する新型インフルエンザ対応総合訓練(関係省庁の連携を確認する)や、全国銀行協会が主催する金融機関のストリートワイド訓練等が実施されている。
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