2014/01/25
誌面情報 vol41
鳥取県における中小企業の取り組み
鳥取県では、県内企業の災害時の事業継続力を高めるとともに、平時からの経営力の強化を目指してBCPの普及に力を入れている。2013年12月までに県内46社がBCPを策定し、現在も約20社が策定中。今後5年間で150社まで策定企業を増やしたい考えだ。
BCPの策定を終えた企業は、その成果をどのように評価しているのか、現状の課題をどう受け止めているのか。製造業の3社と、支援したコンサルティング会社に聞いた。
同業者と相互で補完し合う
割りばしの包装や、食品容器、厨房機器の販売などを手掛ける株式会社丸十は、売上の35%を占める割りばし包装事業を対象にBCPを策定した。割りばしの包装は、顧客となる企業の要望によって印刷するデザインがすべて異なる。「1カ月も事業が止まると大変な迷惑をお客様にかけるし、お客様も一度離れたら戻ってこない」同と、社代表取締役の岡野稔氏は危機感を募らせる。
同社は、BCP策定の過程で、佐賀県にある同業者と事業継続に関する協定を締結することを決めた。どちらかが被災すれば、どちらかが代わって生産をする。包装の色やデザインが統一できるようデータはいつでも共有できるようにし、常に連絡が取りあえる体制も整えた。
BCP策定から数カ月後、同社は思わぬ形でBCPの恩恵を被ることになった。自社の主力機械が故障し、生産力が半減。BCPに基づき、佐賀県の同業者に代替生産を委託し、何とか危機を乗り越えられた。「こんなに早く役立つとは思わなかった」と岡野氏は苦笑を浮かべる。
課題もあった。納期的に生産を間に合わせることはできたが、印刷の色が若干合わなかった。「まだまだ計画が稚拙。詳細を詰めていかなくては実効性が高まらない」(同)。
BCPは、岡野氏を中心に4人ほどの社員でつくった。パートを入れて20人ほどの会社だが、全体にBCPの内容を浸透させるのも今後の課題とする。
もう1点、お互いが被災時に助け合うBCPは、多額な設備投資ができない中小企業にとって魅力的だが「今後、こちらが新しい設備を入れたら、相手の会社にも同じ設備を入れてもらわなくてはいけない。逆に相手が何かやった場合には、こちらも同じものができる体制をつくらなくてはいけない」という問題も浮上した。一つひとつ課題を解決していくしかないと岡野氏は言う。
同社では現在、BCPを災害時のためだけでなく、平時から役立てる試みを始めている。BCPに対する取り組みを自社のチラシに印刷。「売り上げが大幅に伸びることはないが、お客様には評価されている」と、岡野氏はその成果を語る。
品質や環境マネジメントを役立てる
金属の熱処理を行う鳥取県金属熱処理協業組合は、静岡県掛川市にある同業者から、被災時における事業継続の協定を求められBCPを策定した。丸十と同様、どちらかの企業が被災した場合、代替生産をするということが協定の内容。職員数は31人だが、鳥取県で金属熱処理を手がけるのは同社だけ。顧客の数は600社以上になる。
同社はこれまで品質マネジメントシステムのISO9001や環境マネジメントシステムのISO14001、さらに労働安全衛生マネジメントシステムのOHSASなどを構築してきた。こうしたマネジメントシステムがBCPには役に立ったと同社専務理事の馬田秀文氏は語る。
金属の熱処理は日常的にも高熱を使い危険が伴う。加えて「今日持ち込まれたら、翌日までに作業を終え、出荷しなくてはならない」など時間的な制約も高い。それでも、日常的にマネジメントシステムの中で安全文化を築き上げてきたことで、BCPにも応用できたと馬田氏は説明する。
火災やガス漏れ、油漏れなどに対する訓練は日常的に行っており、職員それぞれの、役割、責任も明確にしている。さらに、定期的に内部監査を行う仕組みがあり、トップと職員までがフラットに話し合えるコミュニケーションにも力を入れてきた。多能工を推進していることもBCPに役立ったとする。ローテーション勤務で、例えば、真空熱処理の係長は1週間真空係として働くと、次の週は浸炭熱処理係の部下として働く、次の週は夜勤のリーダー、その次は営業係として受付を担当する。すべての業務をこなせる職員はいないが、1人が複数の作業をこなせるようにすることで、被災時に少ない人数でも主要な事業が継続できるようになっている。
職員が、どのくらいの技量を持っているかは、職員能力評価制度で管理されている。誰がどのレベルにいるかということを毎年評価し、翌年のステップアップの目標にしているのだという。「BCPを考えた時、この仕事ができる人数をもっと増やさなくてはいけないことなどが明確になった」(馬田氏)。
今後の課題は、品質や環境、安全衛生マネジメントとの融合。各種マニュアルが既に存在していることからBCPのマニュアルを独立して作り上げるのか、他のマニュアルに統合させるかなどを検討している。BCPの発令基準や、連絡体制については、訓練を繰り返し、実効性を高めていく考えだ。
誌面情報 vol41の他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2024/10/29
-
-
-
-
-
-
-
-
-
なぜコンプライアンスの方向性はズレてしまったのか?
企業の不正・不祥事が発覚するたび「コンプライアンスが機能していない」といわれますが、コンプライアンス自体が弱まっているわけではなく、むしろ「うっとうしい」「窮屈だ」と、その圧力は強まっているようです。このギャップはなぜなのか。ネットコミュニケーションなどから現代社会の問題を研究する成蹊大学文学部の伊藤昌亮教授とともに考えました。
2024/10/10
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方