写真を拡大 B棟からC棟(避難棟)。1階部分に浸水が落ち着き、13日の朝を迎えた状況(写真提供:川越キングス・ガーデン)

どこでも起こる問題

川越キングス・ガーデンでは、台風当日は朝10時に水位を測り始め、11時には階段の1段目まで水がきたそうです。1時間に1段は、いつもより早いペースでした。ただ、台風が通過した時刻では、8段目の水位で、夜の10時半になった際、職員を休ませることにして様子をうかがうことにしました。それでも、水位を30分ごとにチェックしていると、午前1時半に水位が10段目の階段を超えたことが分かり、すぐA棟とB棟で浸水が始まりました。すでに夜中です。

ここで職員の方24人全員で、車椅子を数人で抱えたり、シーツや布団で担架を作ってC棟への避難が始まりました。24人で100人を避難させるのにかかった時間は2時間だったそうです。通常の夜間体制の5人だと、8時間以上かかったかもしれません。それだと逃げ遅れてしまう人もでた可能性がありました。

さらに、実際に避難されてみて困難だったのは、浸水が始まると床が濡れるので滑りやすくなったことです。通常の避難訓練では床を濡らして訓練はしないのではないかと思います。訓練で入居者を危険にさらすのも心配というのもあるでしょうし、そもそも実際に被災して初めて分かる困難でもあったことでしょう。C棟には3時の時点で全員の避難を完了し、そこからさらに2階を目指し、5時には2階への移動が完了しています。次々と困難が襲う中で、職員の方の疲労も限界になっていたことと思います。

結局、A棟、B棟の1階は床上150センチまで水が来ました。入居者が避難したC棟は、最終的には床下3センチで水位は止まりましたが、浸水している最中には今後悪化するかどうかは判断できません。そして、C棟の食糧や水が浸水で断たれる心配も出てきたので、市に救助要請をされています。救助は10時半に到着し、ゴムボートでの避難となりました。

実は、この救助に向けて2階から1階にいったん入居者を下ろす作業も大変だったそうです。夜を徹して連続しての作業に職員の集中力は途切れがちになりますし、車椅子を抱えての移動は上るよりも下りる方がより危険なので、慎重に行う必要があります。

施設長の渡邊圭司氏は全員が無事であったことについて、訓練の成果ももちろんあるけれど、各地で悲劇が起こっている特養ホームでの逃げ遅れは決して他人事ではなかったとおっしゃっていました。人的被害が出てしまった場所では、職員が入居者の手を握り締め、助けようと努力していたにもかかわらず、その手が冷たくなっていってしまった体験をされた方もいます。その職員の方は、次に介護の仕事に就けるのだろうか、お気持ちを思うといたたまれないというお話も伺いました。職員の方を責めるのではなく、きちんと気持ちのフォローができる体制があるといいなと思います。この問題は、どこでも起こる問題ですし、特養ホームは、少子高齢化を迎える社会にとってなくてはならない施設なのですから。

避難でご苦労をされた川越キングス・ガーデンでは、施設の移転を決定されました。取材の前に調べていた情報では、市と協力しながら移転先を探したものの、浸水区域になく、現在の場所の近くでアクセスもよい場所が見つからないという報道があったのですが、つい先日、移転先の土地と仮契約を済ませたといううれしいお知らせをいただきました。

移転ができるならそれにこしたことがないと思われがちですが、その土地で暮らしてきた高齢者が全く知らない土地に住まなければならないとなると、心のよりどころを失ってしまう危険もあります。近所に移転先があって本当に良かったと思っております。