2020/08/26
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
川越キングス・ガーデンの事例
特養ホームの避難についてよく報道されているのが、川越キングス・ガーデンの事例です。施設長の渡邊圭司氏にお話を伺ってみました。

2019年10月の台風19号の時、川越キングス・ガーデンには、79人とショートステイ利用者が21人の合計100人のお年寄りがいらっしゃいました。ここでは、20年前にも水害の被害にも遭っており、想定最大規模の浸水で5〜10メートルの浸水予測になっています。そのため水防法に基づく避難行動計画も立てられていました。

20年前の水害の際は、道路から正面玄関に上がる10段の階段の84センチ上まで浸水しました。当時のA棟とB棟が浸水被害に遭ったため、土地をかさ上げしてさらにC棟を建設し、避難棟にする対策をとっていました。
実はこの地区は、階段の3段目までは毎年のように浸水している地域です。そのため5段目になったらパソコン、重要書類などを高い所に移動し、その後は状況判断で、入居者を移動するという計画を立てていらっしゃいました。

しかし台風19号は、「観測史上にない」台風として、警戒を呼びかける報道も多くありました。以前ご紹介した障がい者自立支援のSTEPえどがわ(台風で早期避難、自立生活センターの苦悩 https://www.risktaisaku.com/articles/-/21231)では3日前から受け入れ先を探していた状況ですが、まとまった人数の受け入れ先は見つけられませんでした。
川越キングス・ガーデンの入居・利用者は100人ですし、約8割が重度の身体状況や認知症の方です。受け入れ先を探すのは難しい規模であることや、仮に避難所や避難場所に避難できたとしても、介護環境の課題、移動や慣れない場所に滞在する入居者のストレスを考えると、施設内での垂直避難を選択されました。
そして、台風前日に職員と話し合い、いったん帰ると次の日に出勤できなくなる人や、帰る方がかえって危ないかもしれない人は残ることにして、24人の職員が施設に残ることにしました。この人数を覚えておいてほしいのです。一般的に入居者100人の特養ホームの夜間体制は5人というのが法定の最低限の人数になります。それをはるかに超える人数が残ってくれたことによって、後の上層階への避難が可能になっています。
また、これだけ残ることができたのは、事前に今後被害の悪化が予測しやすい台風であったこともあるでしょう。悲劇を生んだ球磨川の千寿園や西日本豪雨は、予測の難しい線状降水帯でした。球磨村では、前日17時に警戒レベル3情報が出ていても、その時点では雨は止んできていましたし、雨の予報も線状降水帯を想定したものではなく、川の水位も氾濫危険水域にはない急速な事態の悪化でした。ですので、気づいた時には状況が悪化していたということは致し方ない状況でもありました。
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