住み慣れた地域に住み続けたい

次に岡山県倉敷市真備町のぶどうの家の事例を紹介いたします。ぶどうの家の紹介は、こちらの記事にも書きました。

高齢者にWeb会議が無理って思い込まないで!
https://www.risktaisaku.com/articles/-/31104

新型コロナの影響で、講演がいきなり1週間前にオンラインに変更になったにもかかわらず素早く対応されたのが、ぶどうの家です。地域には高齢者の方も多かったのに、どうしてそんなことが可能だったのかを記事にしたのですが、一言でいえば、日ごろから地域の方とつながる力が強いからだと思っています。
 

平成30年7月豪雨の被災地である岡山県倉敷真備町では、命を落とした42人のうち36人が65歳以上の高齢者。さらに、8割の方が自宅の1階で命を落としていました。その時、2階に逃げることができていれば助かっていたと思われる地域です。

写真を拡大 想定最大規模洪水ハザードマップ 岡山県倉敷真備町箭田(重ねるハザードマップより)

ぶどうの家は、小規模多機能ホームといわれる施設です。被災当時は27人の登録利用者がいらっしゃいました。認知症の方が多く、また車椅子を使用しているような体の不自由な方もおられました。サービス形態は小規模多機能型居宅介護という介護保険の事業所で施設に通ったり自宅に訪問したり、時には施設に泊まることもできるものです。そして、施設を使用されている方の人的被害はなかったものの、民家風の平屋の施設は天井まで水に漬かりました。

そうなると、高台移転という発想になりがちですが、代表の津田由起子氏にお話を伺うと、建物を再建するに当たって重視したのは、お年寄りたちが住み慣れた家・地域で暮らせるようにすることです。

「それまでの人間関係を築いてきた高齢者が、人と人とのつながりを最も必要とするようになってから、地域と引き離されるということは、あってはならないと思っています」と津田氏はおっしゃいます。災害時も重要なのが地域の人とのつながりです。つながりがあるから、地域の人に支えられて避難できるという思いから、次の被災を考え、対策としてあみだされたのがスロープ付き住宅です。

写真を拡大 (写真提供:ぶどうの家)

写真の住宅は、元は、被災した賃貸住宅です。被災後、利用されないままになっていたので再利用できないものかと大家さんからお声がけがあったそうです。ただ通常の賃貸住宅仕様ですから、お年寄りに優しい施設ではありません。水害時の避難も心配です。そこで、車椅子でも利用できるようにスロープを後づけで設置しました。この角度は「10分の1勾配」と呼ばれるもので、10メートル進むごとに1メートル高さが上がる仕様です。

10分の1勾配は建築用語なので、知る人ぞ知る言葉なんですが、皆さんはご存じでしたか? 例えば、12分の1勾配になるとスロープの上りは緩やかになるのですが、その分、距離が延びるのです。避難するのに適した長さと高さを検討して、この勾配を選ばれたそうです。