NY市と民間企業の連携

ニューヨーク州はタイムラインの発動によってハリケーンの被害を最小限に食い止めたと言われる。一方で、タイムラインの遂行には民間企業との早期の連携も欠かせ

ないことも浮き彫りなった。ハリケーン・サンディから日本はどのような教訓を得ることができるのか。

被災後に政府・学会合同調査団の一員として現地を訪れ、BCPの観点から研究をしてきた名古屋工業大学大学院社会工学専攻の渡辺研司氏に話を聞いた。

教訓その1
時系列に基づき対策を実施できるように計画をつくるべき

ハリケーン・サンディでは、ニューヨーク市長が上陸3日前に避難すべき地域を発表し、沿岸部の病院に入院患者を退避させるよう呼びかけ、地下鉄の運行停止も予告。地下鉄ではあらかじめ電源を地上に運び出すなどの対策を行い、被災を最小限に抑えた。またコンビナートでも事前に製油を止めるなど、タイムラインにのっとった対策が注目を集めた。

こうした取り組みを早くから企業として展開しているのが、世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートだ。独自に複数の気象予報士と契約し、さまざまなハリケーンの

進路を予想。台風の進路上にある全てのウォルマート店舗に対して、仮店舗用の大型トレーラーを派遣した。水浸しになった店舗に変わって物資を消費者に販売できるようにし、営業を継続したという。

2005年に米国南東部に甚大な被害をもたらしたハリケーン・カトリーナの時も、FEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)よりも早く被災地に水を届けたケースもあったとする。このような企業と自治体が連携すれば、被災地にもっと効率よく救援物資を配給することができるはずである。 

「これからは災害対応も、『対応ただができた』というだけではなく、いかに効率よくできるかという、対応のクオリティも問われるようになる」と渡辺氏は話す。

教訓その2
災害発生時の利害関係者間の情報共有と意思決定力を高めるべき

ハリケーン・サンディがニューヨーク市を襲った2012年10月、世界最大の取引額を誇るニューヨーク証券取引所(NYCE)は2日間の市場閉鎖に踏み切った。一方、東日本大震災では、東京証券取引所は翌週の月曜日から売買を開始することを、発災当日の金曜日の段階で決定・告知した。結果として大きな混乱はなかったものの、その週末に発生した原発事故により、日本関連の株や債券の取引市場が大混乱する可能性も否定できなかった。 

「日本でも、ハリケーン・サンディのような甚大な被害が想定される災害が迫り来る状況で、金融市場を能動的に事前に閉鎖することを検討しなければいけない時がくるかもしれない。その時の意思決定の仕組みを構築し、訓練を行うべきだ」と渡辺氏は指摘する。 



米国証券業協会はハリケーン上陸にあたり、協会に所属する証券会社や取引所、決済機構、取引価格情報を配信している会社など、ピーク時にはおよそ400人に上る担当者を電話でつなぎ、電話会議を設定した。ハリケーンが上陸しても確実に業務を行えるか確認し、もし関係機関のいずれかの機能が低下して市場に混乱をきたすようであれば、あらかじめ市場を閉鎖することを検討しなくてはいけなかったためだ。例えばロイターやブルームバーグのような株式・証券などの金融商品の価格情報を提供する会社のシステムに障害が発生し、情報が入ってこなければ市場では取引が全く成立しない可能性もある。