2014/09/25
誌面情報 vol45
NY市と民間企業の連携
ニューヨーク州はタイムラインの発動によってハリケーンの被害を最小限に食い止めたと言われる。一方で、タイムラインの遂行には民間企業との早期の連携も欠かせ

ないことも浮き彫りなった。ハリケーン・サンディから日本はどのような教訓を得ることができるのか。
被災後に政府・学会合同調査団の一員として現地を訪れ、BCPの観点から研究をしてきた名古屋工業大学大学院社会工学専攻の渡辺研司氏に話を聞いた。
教訓その1
時系列に基づき対策を実施できるように計画をつくるべき
ハリケーン・サンディでは、ニューヨーク市長が上陸3日前に避難すべき地域を発表し、沿岸部の病院に入院患者を退避させるよう呼びかけ、地下鉄の運行停止も予告。地下鉄ではあらかじめ電源を地上に運び出すなどの対策を行い、被災を最小限に抑えた。またコンビナートでも事前に製油を止めるなど、タイムラインにのっとった対策が注目を集めた。
こうした取り組みを早くから企業として展開しているのが、世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートだ。独自に複数の気象予報士と契約し、さまざまなハリケーンの
進路を予想。台風の進路上にある全てのウォルマート店舗に対して、仮店舗用の大型トレーラーを派遣した。水浸しになった店舗に変わって物資を消費者に販売できるようにし、営業を継続したという。
2005年に米国南東部に甚大な被害をもたらしたハリケーン・カトリーナの時も、FEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)よりも早く被災地に水を届けたケースもあったとする。このような企業と自治体が連携すれば、被災地にもっと効率よく救援物資を配給することができるはずである。
「これからは災害対応も、『対応ただができた』というだけではなく、いかに効率よくできるかという、対応のクオリティも問われるようになる」と渡辺氏は話す。
教訓その2
災害発生時の利害関係者間の情報共有と意思決定力を高めるべき
ハリケーン・サンディがニューヨーク市を襲った2012年10月、世界最大の取引額を誇るニューヨーク証券取引所(NYCE)は2日間の市場閉鎖に踏み切った。一方、東日本大震災では、東京証券取引所は翌週の月曜日から売買を開始することを、発災当日の金曜日の段階で決定・告知した。結果として大きな混乱はなかったものの、その週末に発生した原発事故により、日本関連の株や債券の取引市場が大混乱する可能性も否定できなかった。
「日本でも、ハリケーン・サンディのような甚大な被害が想定される災害が迫り来る状況で、金融市場を能動的に事前に閉鎖することを検討しなければいけない時がくるかもしれない。その時の意思決定の仕組みを構築し、訓練を行うべきだ」と渡辺氏は指摘する。

米国証券業協会はハリケーン上陸にあたり、協会に所属する証券会社や取引所、決済機構、取引価格情報を配信している会社など、ピーク時にはおよそ400人に上る担当者を電話でつなぎ、電話会議を設定した。ハリケーンが上陸しても確実に業務を行えるか確認し、もし関係機関のいずれかの機能が低下して市場に混乱をきたすようであれば、あらかじめ市場を閉鎖することを検討しなくてはいけなかったためだ。例えばロイターやブルームバーグのような株式・証券などの金融商品の価格情報を提供する会社のシステムに障害が発生し、情報が入ってこなければ市場では取引が全く成立しない可能性もある。
誌面情報 vol45の他の記事
おすすめ記事
-
「自分の安全は自分で」企業に寄り添いサポート
海外赴任者・出張者のインシデントに一企業が単独で対応するのは簡単ではありません。昨今、世界中のネットワークを使って一連の対応を援助するアシスタンスサービスのニーズが急上昇しています。ヨーロッパ・アシスタンス・ジャパンの森紀俊社長に、最近のニーズ変化と今後の展開を聞きました。
2025/08/16
-
-
白山のBCPが企業成長を導く
2024年1月1日に発生した能登半島地震で震度7を観測した石川県志賀町にある株式会社白山の石川工場は、深刻な被害を受けながらも、3カ月で完全復旧を実現した。迅速な対応を支えたのは、人を中心に据える「ヒト・セントリック経営」と、現場に委ねられた判断力、そして、地元建設会社との信頼関係の積み重ねだった。同社は現在、埼玉に新たな工場を建設するなどBCPと経営効率化のさらなる一体化に取り組みはじめている。
2025/08/11
-
三協立山が挑む 競争力を固守するためのBCP
2024年元日に発生した能登半島地震で被災した三協立山株式会社。同社は富山県内に多数の生産拠点を集中させる一方、販売網は全国に広がっており、製品の供給遅れは取引先との信頼関係に影響しかねない構造にあった。震災の経験を通じて、同社では、復旧のスピードと、技術者の必要性を認識。現在、被災時の目標復旧時間の目安を1カ月と設定するとともに、取引先が被災しても、即座に必要な技術者を派遣できる体制づくりを進めている。
2025/08/11
-
アイシン軽金属が能登半島地震で得た教訓と、グループ全体への実装プロセス
2024年1月1日に発生した能登半島地震で、震度5強の揺れに見舞われた自動車用アルミ部品メーカー・アイシン軽金属(富山県射水市)。同社は、大手自動車部品メーカーである「アイシングループ」の一員として、これまでグループ全体で培ってきた震災経験と教訓を災害対策に生かし、防災・事業継続の両面で体制強化を進めてきた。能登半島地震の被災を経て、現在、同社はどのような新たな取り組みを展開しているのか――。
2025/08/11
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/05
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/08/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方